君と出会うために(7)
オレ・・・由良の一大事って言われて、思わず“オレで良かったら”なんて言っちゃったけど・・・どこに連れて行かれるんだ?
オレと由良と運転しているマネージャーの仲原さんという人が乗っている車は、よくパトカーに捕まらないなって思うぐらいのスピードで走っている・・・。
「凪・・・ゴメンね。ボクの仕事に巻き込んじゃって・・・。」
隣りに座っている由良の顔が、すまなさそうな表情になってる・・・。
「気にするなよ。写真撮られるだけだろ?それに・・・実は少し興味もあったしな。・・・・・って、ちょっと待てよ。なぁ、由良・・・オレも由良みたいに化粧しなくちゃいけないのか?」
今、自分の化粧した姿を想像して気持ち悪くなった。
やっぱり中性っぽい由良だからこそ、あーゆう格好が似合うんだよなぁ・・・。
「ぷっ、あははっ・・・凪が化粧!?ないない・・・大丈夫だよ。ただ、上半身裸で撮影になると思うけど・・・それぐらい凪なら余裕だよね?」
さっきまで情けない顔してたのに・・・・めちゃくちゃ笑ってやがる。
やっぱりオレが化粧って想像は、かなり笑いのツボにくるらしい・・・。
由良ってこんなにコロコロ表情が変わる奴だったんだよなぁ・・・。
カツラかぶってメガネしている時は、全然分からなかったけど・・・・・・笑うとすごい幼くて可愛い・・・。
目がクリッとした二重で、唇は蕾のように真っ赤で・・・思わず抱きしめたくなるような・・・。
「着いたぞ!!由良と凪くんは先に降りて、監督のところに行ってろ。オレは車を地下に止めてくるから。」
早口で言うと・・・仲原さんはオレらを車からポイッと放り出して、すさまじい音を立てて車を走らせて行った。
「由良・・・いつも、あんな早い車に乗っているのか?」
仕事があるたびに、あのスピードで送り迎えされたら・・・寿命が縮むんじゃないか?
「う〜ん・・・大体があのスピードだと思うけど。でもさ、ジェットコースターみたいで面白いでしょ?」
凄い・・・ただ者じゃないな。
どう考えてもジェットコースターとは思えないぞ?
由良の神経って・・・意外に図太いのかも知れない。
「さっ凪、行くよ〜。」
由良に促されながら、目の前にある建物の中に入って行った。
・・・・・ここが、撮影現場なのか?
「おはよ〜ございま〜す。遅れてスミマセンでした。あの・・・相手役の人って見つかりました?」
由良が元気良く挨拶して、カメラマンの人に相手役のことを聞いている。
まぁ、別の相手役が見つかってたら・・・オレ、めちゃくちゃ出たい分けじゃないから良いや。
「それがさ〜。相手役の代役を探したんだけど、見つからなくって・・・。由良には今日来てもらったけど、中止になるかもしれないね・・・。」
頭を抱えながらカメラマンが、深くため息をついた。
それを見ていた由良の顔が・・・ニヤっと笑って何か企むような顔になっている。
「ねぇ、ボク・・・代役連れてきましたよ。凪!!こっちに来て。」
邪魔になるかなって思って少し離れた場所に立っていたオレに、由良が手招きをした。
由良とカメラマンの目の前まで行くと、カメラマンの目が大きく見開いてる・・・。
なっ・・・・なんだ?
オレじゃあ、やっぱりまずかったんじゃないのか?
「凪クンって言うんだね?・・・・・よし!!みんな、撮影開始だ。由良、良いのを連れてきてくれたね〜。絶対良いものが出来上がるはずだよ!!」
あれ・・・?
「由良・・・・オレで・・・!?」
急に撮影なんか言われても分からないんだけど・・・。
由良がオレに、ニコッと笑いかけてきた。
「凪・・・すごいね。あのカメラマンに気に入られる人なんて、そうそういないんだから。カメラマンの目利きも終わった事だし・・・スタッフルームに行こっ。」
じゃあ、オレは合格ってことなのか。
良かった・・・せっかく由良が連れてきてくれたのに、これでダメだって言われたら・・・ショックだし、由良に悪いもんな。
由良にスタッフルームと呼ばれる部屋に連れて行かれて、いきなり部屋の中にいたアシスタントの人に上から下まで舐められるように見られた・・・。
なんだ・・・・この人は・・・?
「君が由良チャンの相手役の子ね。じゃ、今着てる服全部脱いで、これ着てくれる?」
ポンッとオレの手のひらに持っていた服を乗せて、今度は由良の方にも服を渡している・・・。
「え・・・?全部って・・・服をですか?」
「そうよ?服もトランクスも脱いで素っ裸になってから、今渡した服着てね。」
トランクスも!?
それは・・・・本当に・・・?
聞き間違いじゃないよな・・・。
もう1度聞き直してみても良いよな・・・?
服を渡してくれたアシスタントの人を見ると、
“さっさと着替えなさい!!”
って目でオレの方を見ている・・・。
はぁ・・・しょうがない・・・か。
ここまで来たら、なるようになれっだ!!
部屋の隅にあるカーテンで遮られている場所で、渡された服に着替え始めた。
あれ・・・?
上の服がない・・・。
・・・・・・・あっそうか!
そういえば、由良が上半身裸になるよって言ってたような・・・。
じゃあ、これで良いんだよな。
さっきのアシスタントの人がカーテンの近くに近寄ってきた。
「これ・・・上半身裸だと、あれだから撮影までの間着といたら良いよ。」
カーテンの間から渡されたシャツを着て、ボタンはしないでカーテンを開けた。
カーテンを開けると由良はもう着替えてて、別のアシスタントの人に化粧をされていた。
化粧を終えた由良が振り返って、オレの方に笑いかけた。
「凪・・・何だか、上半身裸だと・・・色っぽいんだね。」
「え・・・・っ、あっ・・・」
言葉を失った・・・。
振り返ってオレの方を見た由良は・・・由良なんだけど、男の由良でもなくて女っぽい由良でもなくて・・・一人の人間としての由良だった。
人間って、こんなに綺麗な奴がいるんだっと思うぐらいだ・・・。
凄い・・・由良、綺麗だ・・・な・・・。