君と出会うために(6)

 

 

 

 

 

電話の音がうるさかったけど・・・ボクは凪が言いかけた言葉を聞きたかった。

 

「・・・・・電話、取らないのか?」

すぐに鳴り止むと思っていた電話は、鳴り続いている・・・。

 

「はい、もしもし・・・。」

凪に促されて、渋々電話を取った。

 

「ゆ――――― ら―――――っっ!!!

お前いったい何やってんだ!?携帯に何回掛けても、電源切りっぱなしでっ。今日6時から雑誌の撮影なんだぞ?今もう・・・5時半で、本当だったら現場にいてるはずなのに!!」

 

思わずボクが、耳から受話器を放してしまうほどの声の大きさだった。

 

マネージャーの仲原さんだ。

どうしようっ?

もう撮影の時間だったんだ。

「ゴメンなさい。もうすぐ行きますから。」

 

「オレが今、車走らせてるからマンションの前で待ってろ!分かったな?」

 

「ありがとう、仲原さ・・・」

ガチャンッ!!・・・・・プ――ッ、プ――ッ、プ――ッ

 

ボクが最後まで言い終わらないうちに、マネージャーさんは電話を切ってしまった。

 

絶対怒ってるよね・・・。

ちゃんと謝って・・・ちゃんと仕事しなくちゃ。

 

凪のことでいっぱいで・・・初めて仕事のこと頭から抜けてた・・・。

仕事忘れるなんて、今までなかったのに・・・。

 

「由良・・・。何だか忙しそうだから、オレ帰るから。悪かったな、仕事だったんだろ?オレが時間とって・・・怒られてるみたいだったから。」

凪は立ち上がって、玄関に向かおうとした。

 

「ちょっと待って・・・凪がさっき言いかけてたこと言って欲しい。それ言ってくれないと、気になって仕事できないかも・・・。」

凪は少し躊躇したけど・・・ボクに少し照れた笑顔を向けてくれた。

 

「オレがさっき言った・・・由良のこと好きだってのは本当だから。由良の今の正直な気持ち教えてくれないか?」

真剣な凪の眼差しに・・・ボクは戸惑いながら答えた。

 

「ボク・・・正直まだ分からないんだ。凪と一緒にいてると楽しいし、頼りになるし・・・・・・好きなんだと思う。けど・・・・・。」

自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。

 

好きだなんて、よく分からない。

他のクラスの友人と凪は違う。

凪は友人の中でも、特別なんだ。

この気持ち、どうやったら上手く伝わるのかな?

今ので、凪に伝わってるのかな?

 

「由良・・・・・キス・・してもいい?」

 

 

 

 

 

 

えぇ!?

 

これは・・・ボクの気持ち伝わってない?

それとも伝わってて言ってるのかな?

分からないよ・・・。

 

でも・・・もう1度キスしたら、凪を思う気持ちがハッキリするかも。

 

「う・・・ん。いいよ。」

 

ボクの返事に微笑んだ凪の顔が、少しずつ近づいてきて・・・ゆっくりとボクの唇に柔らかいものが触れた。

 

あっ・・・気持ちいい・・・。

凪と唇が触れ合ってもイヤじゃない・・・。

男同士でキスなんかして、気持ち悪くならないってことは・・・やっぱりボクは凪のことが好きなのかも・・・。

凪とキスすると・・・安心する。

 

けど、そんな凪とのキスに浸ってる場合じゃなかったみたい・・・。

 

ピンポーン!!ピンポーン!!

本日2度目のチャイムが鳴った。

 

しまった――――っ。

 

仲原さんが迎えに来てくれること、すっかり忘れてた・・・。

仲原さん・・・怒ってるかな?・・・怒ってるよね・・・。

ハァ・・いやだな〜。

 

急いで唇を凪から離した。

 

凪に部屋で待っといてもらって、おそるおそる玄関を開けると・・・外からグイッとドアが引っ張られた。

 

「ゆ〜ら〜!?オマエは・・・マンションの下で待ってろって言っただろ―――!!」

 

ひぃぃ!?怖いっ!!

 

仲原さんの顔が、鬼よりも恐ろしい顔になっていた・・・。

 

「ゴメンなさい!もう行けますから・・・。ねっ、仲原さん・・・そんなに怒ると、白髪が増えちゃいますよ?」

あっ!しまった・・・。

思わず口からポロッと禁句を言っちゃった。

仲原さん・・・気にしてる事だったのに・・・。

 

「あ〜もういい。今すぐ行くぞ!!ハァ・・・ただでさえ由良の相手役の男の子が、盲腸になって代役探してるっていうのに・・・。これで由良まで休んだら、大変な事になってしまうじゃないか!!」

 

仲原さんは、本当に白髪が増えそうなぐらい苦労した顔をしている・・・。

本人は、白髪のこと諦めてるって言ってたけど・・・まだ27歳なのにね〜。

 

「相手役の子・・・休みなんだ?」

もし、代役が見つからなかったらどうなるのかな?

中止かな?

まぁ・・・ボクはとりあえず行けば良いかな。

 

 

「由良・・・。オレ・・・やっぱり今日はもう帰るな?何だか忙しそうだから。」

凪が部屋の奥から出てきて、ボクと仲原さんがいる玄関に顔を出した。

 

あっ、思わず・・・凪の顔見たら、唇に目が行っちゃうよ〜。

さっきしたキスのことを思いだすんだけど・・・・凪は普通だよね?

多分・・・ボクは今、顔が赤くなってると思う・・・。

でも、凪は・・・何もなかったような顔してる。

ボクと違って緊張しなかったのかな・・・もしかして、慣れてたりして・・・。

 

「ゴメンね、凪。慌しくって・・・。来週からは、絶対に学校に行くから。」

 

 

「由良・・・この子は誰なんだ・・・?」

凪の方を向いてたから・・・後ろから聞こえる声に振り返ると、仲原さんが凪を見て・・・目をキラキラさせてる。

 

「もしかして・・・仲原さん。凪を代役にするつもりじゃ・・・。」

 

ちょっと待ってよ。

いくら何でも凪に頼むなんて・・・。

そりゃ〜さぁ、そこらへんのチンケなモデルよりか凪の方がかっこいいけど・・・。

だからって・・・・・・・。

 

「凪くんって言うんだね?お願いだ!!由良と一緒に来てくれないか?由良に関わる一大事なことなんだ!!」

 

はぁ〜、今の・・・仲原さんの言葉はかなり大げさだよ。

だって、ボクにとっては一大事じゃないし・・・もし今日がダメになったとしても別の日に撮りなおせばいいんだから。

 

なのに・・・凪ったらコロッと騙されちゃってる・・・。

 

「由良の一大事!?オレで良ければ・・・一緒に行かせてもらいます!!」

 

あぁ・・・言っちゃった。

もう、拉致決定じゃないか・・・。

 

「よし!!そうと決まれば2人とも、早く下に止めてある車に乗って!!絶対に撮影に間に合わせるからっ。」

 

20分後・・・撮影開始時間には少し遅れたものの、代役も連れてきたことで無事に撮影が始まった・・・のである。

 

 

 

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