君と出会うために(4)

 

 

 

 

 

オレが由良にキスしたあの日から・・・ちょうど1週間がたった。

あの日から由良は、ずっと学校を休んでいる・・・。

 

オレのせいだ。

 

どうしてオレは由良にキスなんかしたんだろう?

自分でも分からない・・・。

 

アイツは・・・由良は・・・男なのに・・・・・・。

 

あの日、始めてみた由良の本当の目に吸い込まれていくような感じだった。

覚えてるのは、由良の目を見て綺麗だと思ったとこまでだった。

 

・・・・・・気がついたら由良の唇に、自分の唇を重ねていた。

 

由良の唇が凄い柔らかかったのは覚えている。

気持ちよくて、思わず舌まで入れてしまったのはやりすぎだった。

 

唇を離して・・・急に罪悪感が訪れた。

「ゴメン・・・・・・。」

驚いて大きく目を見開いてる由良に、小さな声で呟いた。

「オレ、由良に・・・・・キ・・・ス・・・・・」

 

 

・・・・・・キス・・・・・・。

 

 

由良の顔が見る見るうちに赤くなって、目には涙が浮かび始めていた。

由良を・・・泣かした。

オレが、由良にキスしてしまったから。

由良は・・・オレが手に持っていた眼鏡を奪い取って、オレの前から走って逃げていった。

 

その場に残されたオレとダンボールの空箱は・・・・・・少しの間動くことがなかった。

 

 

 

 

「おい!凪!!由良が一週間も休んでるからって、落ち込むなや〜。」

 

オレと由良の間に何があったか知らない健太郎だったけど、落ち込んでいるオレを慰めようとしている・・・。

気持ちはありがたいんだけど・・・少し、そっとしておいて欲しい・・・。

 

「健太郎・・・大丈夫だから。」

 

「そうか?それなら良いねんけど・・・。まぁそんな湿っぽい話は置いといてやな〜凪、これ見てみ。この雑誌や。」

健太郎に差し出された雑誌の中には、綺麗な子が5ページにも渡って記載されていた。

「この写真の子、可愛いやろ〜。これでも男なんやで!!」

 

オレは・・・オレ自身の目を疑いそうになった。

 

オレの視線の先に写っている男の子は・・・まぎれもなく1週間前にオレがキスをしてしまった由良だったのだから。

 

「この写真の奴・・・・誰なんだ?」

聞かなくても由良という事は分かる。

あの時見た目と同じなのだから。

あんなに綺麗な目をしてる奴は、めったにいない・・・。

けど・・・確かめたい。

 

恐る恐る雑誌を手にして、雑誌の所有者・・・健太郎に聞いてみた。

 

「それがな〜、一切のプロフィールなし!なんやて。なんでも、ここの事務所の社長が秘密にしてるらしいわ。そのお陰でこの写真の子・・・始めは雑誌モデルだけやってんけど、今度CMにも出るみたいやで。確か・・・名前と歳だけは書いてあったような気がすんねんけど・・・。」

 

健太郎は雑誌をパラパラとめくって、1枚の同じ男の子のページで止まった。

 

「あったあった。名前は“世良”、歳は“16歳”って書いてあるけど・・・どう考えても“世良”って名前じゃないと思わへん?普通、男でそんな名前の奴おらんし。歳の方は、見た感じホンマっぽいけど・・・。」

 

途中から健太郎の声が遠ざかっていた。

 

 

“世良”と“由良”・・・・・16歳・・・・・。

 

 

そうなると同一人物としか考えられない。

 

会いたい・・・由良に会いたい・・・。

会って由良の口から本当のことを聞きたい。

たとえ由良が、オレを騙していたとしても・・・モデルをやっていたとしても・・・

 

オレは、由良のことが好きなんだろう。

 

健太郎から世良(由良)のことを聞いて、(健太郎は由良って気づいてないけど。)由良の家の住所を担任から聞き出そうと職員室に向かっている時、廊下でばったり担任と会った。

 

どうやって聞き出そうか・・・。

 

「先生。もう1週間も由良・・・・・坂城の奴休んでるよな?一体どうしたんだ?」

まぁ、こなへんが無難な所だろう・・・。

看病に行くとか何とか言って、住所聞きだせる。

 

「あ〜坂城の奴な、39度の熱出しているらしいんだ。多分・・・坂城の奴、一人暮らしだから今ごろくたばってるかもなぁ。」

おいおい、担任なのに・・・・自分の生徒が高熱出しているってのに、見舞いもなしかよ。

 

「じゃあ、オレ見舞いに行ってくるわ。」

 

「あっ・・・じゃあ悪いけど、もうすぐテストだろ?溜まっているプリントとか持って行ってやってくれねえか?ついでに、ここ1週間分のノートもコピーしていったらどうだ?坂城の奴・・・まだ熱出してるかも知れないから、薬でも持っていけ。」

 

自分で行くのが面倒臭いのか、担任はオレに全部押し付けるつもりみたいだ。

由良の住所がメモってある紙を渡され、

「よろしくな〜。」

と言って、自分の仕事に戻っていった。

 

オレは渡された紙を見て、急いで学校を出て・・・・・由良の家までバイクを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

もうすぐ由良に会える。

 

聞きたいことや・・・話したいことがいっぱいあるから、一刻も早く由良に会いたい。

 

学園からはバイクで10分足らずのマンションだった。

もう1度、住所の書いてある紙をポケットから取り出して見た。

 

“坂城 由良 ○△市○▽×町1丁目 ハイトレイマンション503号室”

 

エレベーターで5階まで上がり、503号室を探した。

「ここだな。」

扉の前上には“503”の文字が書いてあった。

少し緊張しながらも・・・・オレはチャイムを押した。

 

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 

・・・・・・・・待つ時間が長く感じられる。

 

ガチャッ・・・

 

ドアの開く音がして・・・聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「誰・・・?」

1週間ぶりに聞く由良の声は、風邪のせいか少し力なさ気だった。

 

「由良・・・・・・?オレ・・・・・・凪・・・だけど。」

 

「な・・・・・ぎ・・・!?

・・・・・・・帰って。ボクはもう・・・2度と凪には会わない・・・。」

うっすらと開いていたドアが、少しずつ閉まろうとしていた。

 

ここでドアが閉まると・・・オレは、由良に会う事ができなくなる。

顔も見れない。

声も聞けない。

じゃれ合うことも出来ない。

 

そんなのはイヤだ!!!

 

そう思うと、頭より先に体が動いた。

 

・・・・・ガッッ!!!

 

ドアが閉まる前に、オレは自分の足をドアとの隙間に滑り込ませた。

 

「なっぎ・・・!!足・・・離して。」

先ほどの力なさ気な声と違って、悲しそうな声だった。

だからと言って・・・ここから後に引くことは出来ない・・・。

 

「イヤだ。オレは、由良と話がしたいんだ!由良がこのドアを開けてくれるまで、ここから離れない!」

 

「何を言っているの?もう・・・良いじゃないか。ボクが雑誌のモデルの“世良”って分かったことだし・・・。ボクのところに来る用はないんじゃないか。それとも何?もう1度キスしたいの?ボクと・・・男となんて1回で十分でしょ?友達にでも自慢したら?モデルの“世良”とキスしたって!!!」

 

最後の方の・・・由良の声は、泣き声と・・・叫び声が入り混じっていた。

ドアの向こうから聞こえてくる泣き声から、由良が苦しい思いをしていることが分かる。

 

苦しめているのは・・・オレか・・・。

でも、由良に・・・誤解はして欲しくない。

もう2度と会えないとしても・・・誤解だけは解いておきたいんだ。

まだ・・・自分の気持ちを伝える事すらしてないのに・・・・。

 

「由良・・・。聞いてくれ!オレは・・・由良がモデルの“世良”ってこと・・・誰にも話していない。今のオレにはモデルの“世良”は関係ないんだ。由良と話がしたい・・・。それでもダメか?オレ達・・・もう一緒にはいられないのか?由良自身はどう思っているんだ?」

 

由良と一緒にはいられない・・・・・!?

 

自分で言ったものの・・・由良がいないと考えただけで、胸が締め付けられる思いだった。

この思い・・・この思いだけは伝えたい・・・。

 

「オレは・・・オレ・・・由良のことが好きだ。」

 

由良のハッと息を飲む音がドア越しから伝わってきた。

 

・・・・・・・・。

 

長い沈黙の後、オレ達を隔てたドアが・・・・ゆっくりと開け放たれた。

 

初めて見る由良の本当の姿は・・・・・・天使そのものだった。

学校で見るときの由良は、どこにもなかった。

 

・・・・・・・茶色のネコっ毛の髪。

 

・・・・・・・クリっとした二重の大きい目。

 

・・・・・・・整えられた顔の作り。

 

雑誌で見た写真よりも、数倍可愛かった。

   

そしてオレは・・・あまりの由良の魅力に、由良が声をかけてくれるまで放心状態だった。

 

 

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