君と出会うために(3)

 

 

 

 

 

入学式から2ヶ月ほど経ち、ボクはモデルの仕事を続けながら何とか、週に1回休む程度で高校に通いつづけれた。

 

何とか・・・この学園にも慣れてきたかな?凪が手助けしてくれてるし!

でも、最近ムリしすぎで・・・貧血ぎみだけど、それでも凪達と一緒にいるのが楽しい。

 

ボクが本当は顔を隠してモデルやってるって言ったら、凪はすごい怒るんだろうな〜。それともビックリするかな?

 

「おい、由良!早くしろよ〜会議に遅れるぞ。」

凪が、叫びながら教室のドアの前に立っている。

 

「今、用意終わったよ。そんなに大きな声で言わなくても分かってるよ!

それに・・・今日の会議は30分遅れるんだろ?そこまで急がなくても・・・。」

ちょっと怒りながら凪の所に歩いていき、

「さっ、行こ。」

と言って、凪の前を歩き出した。

 

「え?そうだったんだ。やっぱり由良を副委員長にして正解だったな。オレと健太郎だったら、30分遅れなんて知らずに会議室に行ってたも・・・。」

 

・・・・・中学の間、この2人はどうやって切り抜けてきたんだろう?

 

「じゃあさ、ちょっと体育館寄って良い?健太郎に、会議遅れるからクラブも遅れるって言っておきたいから。」

「良いよ。体育館に寄ってから会議室にいけば、ちょうど良いぐらいだし。」

こうゆう所は凪の奴、真面目だよな〜。

 

初夏の風の中、体育館までの道のりを2人でたわいもない話をしながら、ゆっくりと歩いていた。

他の生徒はクラブに行くか、帰宅するかで中途半端な時間には誰もいないみたい。

 

「なぁ、由良。今日から2週間後の日曜日にバスケの試合があるんだ。見に来ないか?」

 

そっか〜凪の奴、バスケ部のスタメンなんだ・・・1年なのに凄いなぁ。

やっぱり、かっこいい奴は何をやっても出来るみたい。

凪のバスケしている姿か・・・そう言えば、ボクは凪達がバスケしているところを見たことがないような・・・?

 

仕事がなかったら、見に行こうかな。

 

「もちろん凪はスタメンで出るんでしょ?じゃないと、見に行かないから。」

「オレと健太郎がスタメンで出るよ。スタメンで出ないんなら、わざわざ由良を誘わないって!知らない奴見ていてもしょうがないだろ?見に来いよ。」

 

「仕方ないな〜2人が出るなら、見に行ってあげよう。もしかしたら、用事が入るかも知れないけど・・・。凪の失敗しているところ見てみたいし。」

 

本当はそんな気ないけど、いや・・・あるかも。

だって凪がミスってるところ、あんまり見たことないし。凪って、動揺したり緊張したりするのかなぁ?

 

「イタッ」

 

凪に両方の頬っぺたをつねられた。

「失敗だと〜?オレがバスケで失敗するわけないだろ?オレと健太郎のコンビ見せてやるから絶対に来い!!平日の学校を休んだりしてるぐらい忙しかったら、休みの日ぐらいヒマだろ?」

 

そうなのだ。

 

モデルの仕事が忙しくて、学校へ行けないときが週に2回はあるんだよ〜。

でも、校長公認の仕事だし・・・出席足りなくて留年することはないけど。

言ってしまえばテストの点さえ良ければ、何とでもなるってことだよね。

 

「なぁ・・・今、頬っぺたをつねって思ったんだけど・・・由良って、肌ツルツルだし色白だよなー夏とかでも焼けたりしないのか?」

 

「え?ん・・・ボク、日焼けしない体質なんだよ。そんな風に、バッカバカ日に焼くことが出来る凪が羨ましいよ。」

この肌の色の話を持ち出されるのはイヤだった。

それでも、少し大人げなかったかな?バカバカなんて・・・。

 

ボクが色白なのは、マネージャーさんに日に焼けることを止められているから。本当に元々あんまり焼けたりしないし。

 

今やってるモデルの仕事はすべて中性的な役柄ばっかりで、ボクが色白で色気(・・・があるらしい。)を売りにしているから少しでも焼けてしまうと困ってしまうんだよね。

マネージャーさん曰く、「透明感のある肌」らしい。

ボク自身はそう思わないけど。

 

ボクだって、夏休みには海に行きたいし・・・プールにも行きたい・・・。

でも、それは出来ないから・・・

もう少しボクが大人になって成長するまで我慢しないと!!

 

でも、やっぱり色白って言われるのは男として少し悲しい。

だって女の子は自分より色の白い子は好きじゃないって、ボクが乗ってる雑誌でよく書かれてるし。

それなのに、凪ってば・・・何か腹立ってきた。

 

ムカムカしながら凪の前を歩いてたら、ついつい周りが見えなくなっていたらしい。

 

「由良、前!!前みて歩け!危ないっ。」

 

凪が止める間もなく、ボクは廊下に積んであったダンボールの空き箱に正面から激突した。

ボクの身長の1.5倍ぐらいの高さに積んであったから上からダンボールが降ってきて、ボクの体に覆い被さってきた。

 

 

 

 

「イテテ・・・・・。あ〜びっくりした。凪〜ぶつかる前に教えてくれたら良かったのに。」

「オレはぶつかる前に言ったからな。由良が歩くの速いんだって!」

凪の言葉を聞きながら、何かおかしいと違和感を持った。

目元に手をやると・・・しているはずの眼鏡が・・・ない・・・。

 

あぁ!!

眼鏡してないっ!

どっ・・・・どこにいったんだ!?

 

ヤバイって・・・早く見つけないと凪に顔見られたら、モデルやってることばれるかも知れないのに。

ばれたら前の中学校みたいに・・・ボクの居場所がなくなっちゃうよ。

 

そんなのはイやだ!

 

この学校は居心地がすごく良いんだ。

それに学校に来れなくなると、凪達にも会えない。

ボクは凪達と一緒にいるのが楽しい・・・。

 

もう・・・すぐ側まで凪が近づいてる。

下を向いてるボクの肩に凪の手が触れた。

「おい由良・・・大丈夫か?本当にバカな奴だな〜。ほらほらっダンボール片付けるの手伝ってやるから。」

 

「・・・・・・それより、ボクの眼鏡落ちてない?」

凪の方を見ないように必死になって探すが少し飛んでしまったのか、眼鏡はボクの近くにはなかった。

 

凪に本当の顔を見られたら・・・ボクは・・・ボクは・・・

 

「由良!眼鏡見つかったぞ。少し遠く飛んだみたいだけど、眼鏡は壊れてないみたいだ。」

あぁ・・・良かった。見つかって・・・。

「ありがと、じゃぁボクに眼鏡渡して。」

見つかったこともあって、少し気が抜けていたのかも知れない・・・。

 

まさか、凪がそんなことを突っ込んでくるとは思ってもいなかった。

言ったボクでさえ、忘れていたことだったのに・・・。

 

「ちょっと待てよ。なぁ由良・・・この眼鏡、度が入ってないじゃないのか?ただの分厚いガラスがはめ込んであるだけだ。一体どういうことなんだ?

確かオマエ、最初入学式で会ったとき目が悪いんだって言ってたよな?

ちゃんと説明してくれないと納得出来ないんだけど・・・。」

 

凪がだんだんとボクに詰め寄ってくる。

 

どうしよう・・・。

 

このままじゃ・・・凪に見られて、みんなに広められて、騒がれて、この学校を辞めなくてはいけない・・・!!!

 

「いいから・・・眼鏡返して!!」

凪の方を見ないように手だけを凪に向かって差し出し、大声で怒鳴った。

けど人気のない廊下では誰もボクの声を聞いて、ボクと凪のところに近づいてくる生徒はいなかった。

 

さっきと同じように・・・

 

ボクの肩に凪の手が置かれ、横を向いていた体を凪の方に向けさせられ・・・下を向いていた顔を凪の手によって持ち上げられた。

 

「言いたいことはオレの目を向いて言え・・・・・よ・・・。」

 

最後の言葉まで言い終わらないうちに、凪は手の動きを止めた。

初めて目を合わしたボクと凪は・・・見詰め合ったまま呆然としていた。

 

ボクは、眼鏡という分厚い遮りがない状態で凪の目を見て・・・・・・・・

眼鏡ない方が凪の顔・・・目・・・鼻・・・口・・・すべてが綺麗なんだ。

特に凪の目は、人を引きつけてしまう力がある。

だって・・・ボク・・・凪の目を見たときから体が動かないんだから。

 

・・・・・・・・・・・・っ!!

 

ハッと気づいて目を見張ると、凪の顔が近づいてきている。

「な・・・・ぎ・・・?どうし・・・」

 

んんっ・・・んぁ・・・

 

凪の形の良い唇が、ボクの唇から声が出るのを封じ込めた。

ボクの体は・・・全身が震え立ち、胸の動きが早くなり、脈がドクドクを波打っている。

 

・・・・・どうしたんだ・・・ボクは・・・。

 

堅く閉じていた唇を、凪の舌によってゆっくりとこじ開けられ・・・凪は舌をボクの舌に絡め始めた。

ボクは凪によって翻弄されて、息苦しくなる。

ボクの唇から流れ落ちている唾液からは、お互いの唾液が混ざり合っていることが分かる。

 

クチュッ・・・・

 

重ね合わしている唇から、絡み合う音がする。

 

「んんっ・・・んぁ・・・・やめ・・・・んっ・・・・・」

 

凪の唇から離れようとしても、ボクの唇は吸われて・・・力が抜けていく・・・。

凪・・・キス上手い・・・男の人にキスされて・・・しかも初めてなのに・・・・・・気持ち良いかも・・・。

 

フッと唇が離れたことに気づいて、ボクは閉じていた目を凪の方に向けた。

「ゴメン・・・・・・。」

凪は、申し訳なさそうな顔で・・・小さい声で囁いた。

「オレ、由良に・・・・・キ・・・ス・・・・・」

 

 

・・・・・・キス・・・・・・。

 

 

その言葉を聞いて、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

顔が熱くなり、ボクの目からは涙がうっすら浮かんでいた。

 

凪の目を・・・顔を・・・見ていられなくて、眼鏡を凪の手から奪い取って・・・・・ボクは、その場から走って凪から逃げてしまった。

委員会のことも忘れて、学校から家に帰り・・・玄関にへたり込んでしまった。

 

ボク・・・・・・凪に・・・キス・・・されたんだ。

 

 

 

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