君と出会うために(1)

 

 

 

 

 

今日から、ここに通うんだ。

なんか、雑誌の撮影よりか緊張するや。

初日の入学式からドジらないようにしないと・・・。

緊張すると声が裏返っちゃうんだよね。

 

ボクは、足を速めて−今から僕を待ち構えている入学式の会場に入って行った。

 

ボクが入学する学校−清涼学園・男子校−実家から遠かったけど、モデルの事務所に近いand親の目から逃れられる。(特に、僕の姉はかなりのブラコンだ。)

ボクのことを心配してくれるのは良いんだけど、高校生になってまで・・・って思ってしまう。

 

そんなことを理由に、ここを受けて合格。

一人暮らしが始まった。

この学園には寮という建物はないけれど、近くに一人暮らし用のマンションがいっぱいあるみたいなんだ。

 

姉に騙されてモデルになってしまったものの、初めは、乗り気じゃなかったけど、一度撮られてみると楽しかったりするだよな〜。

 

それに・・・・・モデル業が儲かるみたい・・・。

事務所の仲原さん・・・マネージャーがマンションを決めてくれていて、しかも全部用意されていたから、アッと言う間に引っ越しになった。

 

仲原さんは、凄い頼りになる人だった。

ボクがモデルをやり始めた時は、どうして良いのか分からなかった。

そんな時、社長が付けてくれたのが仲原さんだったのだ。

仲原さんは新米のボクにモデルの仕事をいっぱい取ってきてくれた。

ボクがモデルとして有名になれたのも、仲原さんがいるおかげだった。

 

   

会場に入り、空いている席に座った。キョロキョロと辺りを見回してみて、ホッとした。

 

『良かった。』誰も知っている人いないや。

中学の時は、全校生徒にモデルをしていたことを知られていたので、みんなが来ない遠い所を受けたのだ。

 

――ドサッ――

 

急に隣の席に人が座ったので、ちょっとビックリした。

フッと横を見て顔を見上げると、かなりの男前が座っていた。

モデルをやっていて、男前な人は見るけれど・・・その人たちに負けをとらないぐらい、原石のままのかっこよさだった。

 

うわ〜〜〜かっこいい人だなぁ。

ちょっと、緊張する・・・。

 

この学校には、こんなにかっこいい人がいるんだなぁ。

男子校って男臭いイメージがあったけど、そうでもなかったんだ。

思わず隣りの彼に見惚れていると、視線に気づいたのか彼がこちらを見た。

そして、少し顔を和らげて爽やかに微笑んだ。

 

「オレ、水無月 凪ってんだ。お前は?」

少し低めの響くような綺麗な声・・・。

今まで聞いた中で上位3位には入るぐらいに体に響くような声だった。

その声に魅入られて、少し我を忘れていた。

 

「え?う・・・あっ・・・ボクは、由良・・・坂城 由良。」

「あははっ・・・そんなに、どもらなくっても。なぁ、由良って呼んでいい?オレのことは凪って呼んでくれていいから。」

彼は、クスクスっと声を殺して笑っている。

そしてボクの方を見て、笑った。

 

笑った顔が、人懐っこいしぐさで相手に不快感を持たせないみたいだ。

 

こっちまで、つられて笑顔になっちゃうよ。

ボク、マネージャーから「高校では、本当の笑顔を見せるな!」

って言われてるのに・・・。

ボクは、なんとか作り笑顔で、

 

「じゃあ、凪。よろしく!」

 

 

 

 

 

「由良って小さいなー、何cmだよ?」

凪が、ボクの頭をポンポンって叩きながら聞いてきた。

 

「小さいって・・・一応162cmあるんだけど。凪が大きすぎじゃないの?」

 

「そっか・・・そうかもな〜。オレ、185cmでまだ伸びているし。」

 

なんて、うらやましい・・・。ボクなんか、止まっちゃってるよ。

 

モデルやるには身長が足りないボクは、中性的な・・・男か女か区別がつかないような写真しか撮ったことないや。

人の目騙せて、おもしろいんだけど。

マネージャーは、そんな中性的なところが人気になっているんだって言ってたっけ?

 

「なぁ由良って、いつもそんな感じなのか?」

 

「えっ?そんなって・・・?」

 

「だって、髪の毛真っ黒で‘ピシー’って分けてるし、黒ブチ眼鏡だし・・・

それにしても、由良は眼鏡が似合わねぇな。」

 

んんっ?何のこと?・・・・・・・っ!?

あぁ〜!そうだった!!

 

忘れてたけど、モデルしてるのがバレたら騒がれるからって、カツラかぶって、度の入っていない瓶底眼鏡かけて、顔隠してるんだった。

危ないよ〜。

ボク・・・こんなんで学校生活無事に過ごせるのかな・・・。

ちょっと心配になってきた。

 

「ぉぃ・・・おい!由良?」

「え?ゴメン。何?」

 

あぁ・・・また、トリップしちゃった。

最近、モデルの仕事が忙しくて寝不足だからな〜。

 

「何って・・・。ボーっとしすぎだぞ!由良って、眼鏡かけるほど目が悪いのか?」

凪が回り込むように、ボクの顔を覗き込みながら聞いてきた。

 

あ・・・あんまり近づかれると、凪の顔が綺麗だからドキドキするじゃないか!

「ボク、めちゃくちゃ目が悪いんだ。1m離れただけでも、ほとんど見えないんだよ。」

 

ごめん、凪。本当は両目とも、2.0あるんだけど・・・。

だ・・・だけど、早く顔離して〜顔が熱くなってきた・・・。

ボク、綺麗な人に弱いんだよな〜。男でも女でも・・・。

 

「そ・・・それよりさぁ、この後クラス発表だよね?」

 

凪の顔をとうざけようとして、無理矢理話をそらした。

クラスにどんな人がいるのか、すごい気になるのは本当だし。

凪が一緒だったら心強いのにな。

 

そんな風に思ったことが、凪に伝わったのか、

「俺ら、同じクラスだぞ。うれしいか?」

 

「何で分かるの?」

ちょっと、ビックリした・・・。凪は人の心を読む天才かも知れない!

 

「だってオレ、試験のトップで何日か前に呼び出されたりしてたんだ。

その時に、クラス分け表見たから。しかも、この学園って中学も一緒だろ?

外部受験ってあんまりいないから、知らない名前はすぐに覚えた。」

 

凪がトップ・・・?この人、実はかなりすごい人物なのかも・・・。

サラサラっと、何事もないかのように話す凪が、すごくかっこいいと思った。

 

入学式+始業式が終わり、ボクは凪に案内してもらって教室に向かおうとした。

ところが、近くの先生に引き止められ校長先生の所へ行かなくちゃならなくなった。

 

「凪、ボク校長先生のとこへ行ってくるから先に行ってて!!」

凪が呼び止めようとしていたのに気づいていたが、「どうしたんだ?」と聞かれるのが分かっていたので、聞こえないフリをして校長室に向かった。

どうせ、用件は分かっているのだから。

 

校長先生は、ボクの――モデルの“世良”って偽名を使ってるんだけど――

大ファンらしいのだ。

多分・・・サインくれとかなんだろうけど。

 

せっかく凪と仲良くなれて、教室案内してもらうところだったのに!

 

 

ハァっとため息をつきながら、ボクは足取り重く校長室へ向かった。

 

 

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