幼なじみ(5)
「雅。猛は、オマエの恋人じゃなかったのか!?」
ほら見ろ。
やっぱり思った通りだな。
だって祐希の奴・・・食堂で猛を会ったオレを見てから、ずっと怪訝に思うような顔してたもんな。
それにしても!!
他人から見ててオレと猛が恋人同士に見えるんだったら、何で当の本人の猛は気づかないんだろうか・・・。
さすがは天然っていうべきなのか、ただのニブイだけなのか・・・。
「オレと猛は・・・付き合ってないよ。オレが勝手に片思いしてるだけだから。猛は・・・オレの気持ちなんか全然知らないんだ。」
だから猛はオレじゃなくて、あの女の子と一緒にいたんだ。
オレは・・・ただの友達だもんな。
祐希は少しためらいながら、オレの体を包み込むように腕をまわしてきた。
「雅・・・オレは雅が好きだ。雅が猛のこと好きだって、ずっと前・・・初めて2人に出会った時から気づいてたんだ。てっきり猛も雅のこと好きだって思ってたけど。でも猛は、あの女の子と一緒にいた。オレじゃダメか?雅はオレの事嫌いか?」
オレを抱きしめる祐希の腕に、少し力が入る。
祐希がオレのこと好きだって思っていてくれるのが、痛いほど伝わってくる。
でも・・・オレは猛が好きで、その気持ちをまだ猛に伝えていない。
「祐希の事は好きだけど、愛しているのは猛なんだ。ごめん・・・・・。自分の気持ちにきっちりと整理つけないと・・・祐希には答えてやれない。」
祐希は腕を、そっと離して悲しげな顔をした。
「ごめん・・・・・。」
その言葉しか出てこず、何度も呟いた・・・。
「オレより雅の方が辛い顔してるぞ?あの女の子が猛の何であろうと、雅は猛に思いを伝えるのか?」
祐希・・・どうしてオレは、お前じゃダメなんだろうな・・・?
祐希と一緒だと、オレは・・・オレのままでいられるのに。
祐希が恋人だったら・・・自分を見失わずに、気持ちも乱されないのに。
猛といると・・・オレはオレでいられなくなる・・・。
「もう、猛と友達のまま一緒にはいられないんだ。オレは・・・猛を愛してるから、このまま気持ちを抑えつづけていることは出来ない。」
友達として猛とやっていく自信がない・・・。
猛と愛し合えることが出来ないなら・・・・・猛とは、もう・・・・・・・。
「オレは・・・猛に気持ちを伝えるから・・・。祐希がオレに告白した勇気を少しだけ分けてくれないか?」
少しだけで良い・・・オレに告白する勇気が欲しい。
祐希はオレの頭を軽く叩いて笑った。
「これで雅にはオレの勇気が入ったからな!もし・・・雅が猛に振られたら、オレが慰めてやるから。」
祐希の笑顔につられて・・・オレも笑った。
もう、いつもの祐希に戻っていた。
ナゼかというと・・・じゃれあいで、祐希はオレに抱きついてきたからだ。
「祐希っ!!!」
こいつは・・・立ち直りが早いのか、無理をしているのか・・・分からない。
しかも振ったオレの方が慰められるなんて、何だか悔しい気がする。
でも・・・祐希のお陰で猛に、あの女の子のことを聞いてオレの気持ちも伝えれそうだ。
「・・・・・そうだな。もし猛に振られたら・・・頼むよ。」
祐希の気持ちを利用しているかもしれない・・・けど、振られて猛とは一緒にいられなくなったら・・・一人ではいられないと思う。
「おぅ!まかしとけ。じゃあ、餞別にこの薬やる。副作用とかないから安心して使ってもいいぞ〜。」
オレは怪しげな袋に入った薬を手渡された。
「何なんだ?この薬は・・・。」
「己の欲望を抑えきれない薬・・・・・。」
結局オレは3限目をサボって祐希と話し込んで、そのまま家へ帰った。
祐希にもらった薬を手で握り締め、オレは猛の家の前で・・・猛の帰りを待ちつづけた。
けど、猛が帰ってきたのは・・・夜の12時をすぎてからだった。
* * * * * *
猛の奴・・・まだ帰ってこない。
初夏に入る前の涼しい夜だった。
猛と再会してから3ヶ月が経とうとしていた。
オレは猛の家のドアにもたれ掛かって、ウトウトとし始めていた。
コツ・・・コツ・・・。コツ・・・コツ・・・。
足音がだんだん近づいてきているのを耳で聞きながらも、オレは寒くて眠くて・・・うずくまっていた。
「雅くん・・・?どうしたの、こんな時間に・・・。」
オレに気がついて慌てて駆け寄ってきた猛は、心配そうにオレに声をかける。
オレは・・・猛に心配をかけたくなくて、待ちつかれていた顔で笑顔を作り・・・
“ハハハッ・・・”
と笑った。
「猛を・・・待っていたんだ。聞きたいことと、話したいことがあって・・・。とりあえず寒いから家の中に入れてくれないか?」
「すぐ開けるから!!」
珍しく弱っているオレを見て、猛は慌ててドアを開けてオレを中に招き入れた。
奥の部屋で寒くて毛布に包まっていると、猛がホットココアを入れてきてくれた。
「さんきゅー。すっげぇ温まる。」
「雅くん・・・ボクのところに来るんだったら、電話してくれたら良かったのに。」
猛にしては珍しく・・・少し怒っている口調だった。
多分そんな風に怒るぐらい、オレの顔色が悪かったってことかな・・・?
「猛がすぐ帰ってくるかなって思ってて・・・気がついたらドアの前で寝てしまってたみたいだな。」
「何時から待っていたの?」
「えーっと5時ぐらいかな・・・だって猛、3限までだっただろ?」
オレは・・・猫舌だから少し冷まそうとしていたココアを、少しずつ飲み始めた。
次の猛のあまりに大きい声で、ココアが入っているコップを落としそうになった。
「5時!?ってことは7時間も?ここで待っていたの?」
「すぐに帰ってくると思って・・・何してたんだ?」
何してた・・・?っか。
だいたい予想はついてるけど・・・。
猛は口をキュッと引き締めて、何かを言い出しそうな顔をしている。
「今日・・・学食であった女の子と一緒だったんだ・・・?」
・・・・・・・。
「うん。」
「あの子と付き合ってるか・・・?」
・・・・・・・。
「・・・・・うん。」
「いつから?」
「・・・1週間前から。」
「好きなんだ?」
・・・・・・・。
「・・・分からない。」
「は・・・?じゃあ何で付き合ってるんだ!?」
猛の答えにびっくりして声を張り上げてしまった。
あの子のこと・・・別に好きじゃないなら付き合わなくても良いんじゃないのか?
猛って・・・好きでもない子と付き合ったりできる奴だったんだ・・・。
「あの子・・・雅くんに似てるんだ。一緒にいて、すごい安心する・・・。今までの女の子とは少し違うんだ。だから一週間前告白された時、良いよって返事したんだ。雅くんにいつ言おうかって考えてる間に一週間経っちゃって、言いづらくなって・・・ごめん。」
今・・・猛は、あの子がオレに似てるって言ったよな?
じゃあオレは・・・・・?
今までは猛の隣りにいるのはオレだったのに・・・あの子がいたら・・・
オレは必要ない・・・・・?