幼なじみ(3)

 

 

1週間後・・・・・今日から大学生だ。

 

オレは大学の入学式に行くため・・・前から用意してもらっていたスーツを着て、母さんの前にお披露目した。

 

母さんによると・・・

“顔が可愛いからスーツなんて似合わないと思ってたけど、意外に似合うのね。”

らしい・・・。

 

“綺麗な顔してるから、似合うんだよっ!”って思ったけど、絶対言い返されることが分かってるから・・・やめとこ。

母さんに勝てる奴はいないんじゃいか?

 

父さんは・・・母さんのどこが好きになって結婚したんだろ?

きっと結婚してから死ぬまで、尻に引かれっぱなしだったに違いないな。

 

初日に大学遅刻したら恥ずかしいから、お披露目を終了して行く用意をしていると・・・

 

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 

玄関のチャイムが家の中に鳴り響いた。

 

こんな朝早くから一体誰なんだ?まだ7時だぞ?

オレ・・・用意で忙しいのに・・・。

母さんは・・・。

チラッと母さんの方を見ると、全く動こうとしていない。

やっぱり・・・。

期待するだけ無駄ってことだよな・・・。

 

仕方なく、急いで玄関の扉を開けると・・・・・・・

 

「あれー?猛・・・?おはよう。どうしたんだよ、こんな朝早くから。」

 

なぜか猛の服装は・・・オレと似たようなスーツ姿だった。

いつもはジーパンにシャツとかなのに、今日に限って・・・?

 

「おはよう、雅くん。一緒に大学行こうと思って・・・用意は出来た?」

 

「へっ?」

 

朝の働いていないオレの脳には、難しい言葉だったようだ。

今・・・大学って行ったような気が・・・。

 

「・・・なぁ猛・・・。もしかして・・・もしかせんでも、同じ大学・・・とか?」

猛はオレの言葉を聞いて、不思議そうな顔をした・・・。

“なんで知らないの?”って・・・猛の顔がそう言ってる・・・。

 

「そうだよ〜。ボク・・・言ってなかった?由佳子さんには伝えたはずなんだけど・・・。」

 

何――――!!!

 

オレは聞いてないぞ!!

もしかして・・・!?

 

パッと母さんの方を見ると、今の話聞こえてたのか・・・明後日の方向を向いて口笛を吹いている・・・。

 

くそっ!!・・・・・・・は〜め〜ら〜れ〜た〜。

 

なんで母さんには敵わないんだ――!!

 

「猛!!オレに直接言わないんだよっ!?」

あぁ〜猛に八つ当たりしても、仕方ないのは分かってんだけど・・・。

けど・・・このムカムカした気持ちは、どうしたら良いんだよっ。

 

「ボクがたまたま先に由佳子さんに言って、雅くんにも後で話すって言ったら・・・“雅孝には私から言うから!”って・・・だから言わなかったんだけど。」

 

今度は猛と2人して母さんの方を見ると、明後日の方向を見ていた母さんが大げさにビックリしている顔をした。

 

また・・・何か企んでいるのか?

 

「雅孝、猛くん!!時間が・・・早く出ないと遅刻するわよ。今すぐ出れば入学式に、ちゃんと間に合うから・・・。」

 

めずらし〜母さんが時間を見逃すなんて・・・オレが人より1つや2つ先を考えてるとしたら、母さんは3つや4つも先を考えてるような人なのに!!

 

遺伝って言うか、オレら家族は人の考えてることが何となく分かるんだよな〜。

 

母さんの言葉を聞いて、猛と2人で急いで出たのに・・・大学に20分も前に着いてしまった。

 

そういえば、あの時・・・2人で母さんを問い詰めようとしてたところだったような気がしなくともない。

 

もしかして、また・・・?

 

また、は―― め―― ら―― れ―― た――!?

 

 

 

“結局母さんには勝てないってことだよな。”って思いながら、大学の入学式の会場へ歩いていると・・・隣りで猛がキョロキョロと辺りを見回している。

 

「どうしたんだよ?大きい体してるのに肩すくめたらかっこ悪いぞ。」

 

「何か・・・視線をいっぱい感じるんだけど、ボク・・・何か変なのかな?」

 

こいつ・・・自分が背が高くて、かっこ良くて、目立つってことに自覚がないのか!?

ついでに言うと、目立っているのはオレら2人なんだけどな。

猛は・・・・・・見たままの男前だし、オレは自分で自覚しているぐらい母さん似の綺麗さがあるからな〜。

 

「気にするな。その内慣れるって。それに・・・あの辺の男や女どもには、こうしてやれば誰も近づかないって!!」

そう言うと、オレは向こうで5・6人固まっている女の子集団に・・・・・・飛びっきりの笑顔を投げ与えた。

 

「こんな感じだ。そろそろ会場に入らないか?」

 

向こうで女の子達が、

「キャー見た!?」

「可愛かったよね〜。」

「うそっ見てなかったよ〜。」

と、口々に叫んでいるのが聞こえてきた。

 

けどオレは・・・こんなのには慣れていたから、軽くあしらったんだけど・・・。

猛は・・・今のオレの行動を見て、尊敬の眼差しでオレを見ていた。

 

 

「雅くん・・・いつの間にそんな女の子慣れしてるの?すごいなぁ。」

本当に感嘆の声を上げて言う猛は、ウソをついてはいないだろうと分かるんだけど・・・。

 

でも、猛もそれほどの男前だったら女の子慣れしてるんじゃないのか・・・?

 

「猛だって・・・向こうではかなりの女の子と付き合ったんじゃないのか?」

本当は女の子と何人付き合っただのと、そんな話は聞きたいわけじゃない・・・。

 

聞いてることと思ってることは全然違うけど・・・オレの気持ちは、オレの料理を食べてくれて“おいしい。”って笑った猛の笑顔に惚れてしまっている。

オレは、猛の10年間を知らないから・・・だから、どんな話でも猛のことを知りたいんだ。

 

「かなりのって・・・そんなに付き合ってないよ。そんなにって言うか、1人なんだけど・・・。それに、すぐに振られたしね。」

 

「え・・・?何ウソ言ってるんだよ。」

 

「ホントだってば・・・“顔は好きだけど、中身は頼りないから”って言われて振られたんだ。あれ以来、ボクは・・・自分自身が嫌いなんだよ。」

猛は少し悲しげな顔をして話してくれた。

 

自分自身が嫌い・・・?

何でそんなこと言えるんだ?

 

猛は・・・かっこいい。

猛は・・・やさしい。

猛は・・・猛が・・・嫌い?

 

オレは・・・?

オレは・・・オレ・・・猛が・・・好き?・・・・・・・好き。

 

「オレは、猛の・・・顔も、中身も、すべて好きだから。」

 

 

 

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