幼なじみ(2)

 

 

 

 

 

「ただいまー母さん。猛連れてきたぞ。」

 

キッチンからバタバタと足音が聞こえてきて、オレ達が入ってきた玄関で止まった。

 

「お帰りー雅孝。・・・・・え!?猛ちゃん?・・・大きくなったわね〜。あの時の小さい猛ちゃんが、こんなに大きくなってかっこよくなってるなんて思ってもみなかったわ。」

 

「お久しぶりです、由佳子さん。」

母さんは礼儀正しい猛を見て、うちの息子と大違いねっと大喜びだった。

 

これだからオレの母さんは・・・少しは自分の息子を可愛がれっての!!

オレを生んだのは母さんなんだから。

それに・・・・母さんソックリの顔してるし。

 

「私も猛くんみたいな息子が欲しかったわ。だって・・・雅孝ったら男前って言うか、可愛くなっちゃったんだもの・・・。」

 

いやだから、遺伝ってものがあるだろうが・・・。

オレの父さんも・・・オレが2歳の時に死んでしまったけど、写真で見る限り可愛らしい人だったし。

家族そろって童顔だから、どう考えても猛みたいにはならない。

 

「あっ雅孝!!母さんが口挟んでおくけど・・・猛くんに惚れちゃダメよ!猛くんは母さんのも・・・え〜っと、みんなのものなんだからね!!」

 

「はぁ!?何言ってるんだよっ。母さん、猛は男だろ?それに・・・誰もこんな鼻垂れに惚れたりしないって。」

 

オレは思いっきり頭を振って否定した。

オレの隣りでは、猛がオレと母さんの会話を聞いてクスクス笑っていた。

 

一体母さんは何を言ってるんだか・・・。

でも、オレが男しか好きになれないって知っているのか?

ずっと内緒にしていたんだけど・・・。

 

 

オレが始めて男しか好きになれないって自覚したのは・・・・中2ぐらいか?

 

先輩の家でエロビデオ見せてくれるって、クラブの友達に誘われて行ったけど・・・みんなビデオを見て興奮してるのに、オレは・・・その興奮している友達を見て立ってしまったんだ。

あの時は何なのか分からなくなって、頭がパニくって・・・トイレに駆け込んだ。

 

先輩や友達が部屋でオレのことで笑いながら、

「我慢出来ない奴だな〜。」

「そんなにビデオが良かったのか?」

と言っているのが聞こえてきたけど、オレは・・・自分のモノを静めるのに必死だった。

 

帰るときに先輩がビデオを貸してくれたけど、見ることはなくて今でも埃をかぶって押入れの中にしまってある。

 

1週間ぐらい・・・あの時のことが夢に出てきていて大変だった。

それ以降、その友達には必要以上に近づくことが出来なくなってしまった。

 

高校に入り、オレは周りから“綺麗”だとか“可愛い”だとか言われ始めた。

周りから言われると、自分でも“オレは綺麗なんだ”と思ってしまって自分に自信を持つようになった。

 

一部の男ども(男しか好きになれない奴ら)に好かれた。

告白もされたけど、自分がそういう奴らと一緒だと分かっていても・・・好きになれなかった。

 

自分の性癖が信じられなくて、ムリして同じ学校の女の先輩と付き合って見てSEXをしたが・・・気持ち良くなかった。

それから2・3回男の人と付き合って別れたりを繰り返して、結局心から好きになれる人はいなかった。

 

そして・・・・・18年間本気で人を好きにならないまま、大学生になった。

 

 

「そろそろご飯にしましょ!おなか減ったでしょ?猛くんは・・・すぐ用意出来るから席に座って待っててくれる?・・・ほらっ雅孝、ボーっとしてないで早く靴脱いで上がって!!すぐにキッチンの方に来てね〜。」

 

バタバタと走っていく母さんをしり目に、オレは“はぁ”とため息をついた。

母さんが猛に惚れるなとか言うから・・・自分の過去を振り返ってたんじゃないか。

あんまり思い出したくない過去なんだけど・・・。

 

まぁ、オレはオレの人生だし・・・後悔はしてないつもりだけど。

 

 

「おいしい!!すごいおいしいです。ボクの母は料理ヘタだから・・・由佳子さんは上手いですね。」

猛はすごい嬉しそうな顔をして、バクバクと食べている。

 

すごい食べっぷりだな〜。

そんだけ食べれば、バカでかく成長するはずだ。

うれしそうに食べているのを見ると、がんばった甲斐があったってもんだよな。

 

猛はオレの母さんが作ったって思っているみたいだ。

実は、この料理作ったの・・・・・

「猛くん。それね、全部雅孝が作ったのよ。昨日のうちから用意してたの。」

 

お箸でつかんでいた食べかけの芋が、コロコロっと転げテーブルの上に落ちた。

 

はははっ・・・その時の猛の顔、固まっていたよな。

 

「え・・・?これ・・・雅くんが?・・・・・・・えぇ――――!!!」

思ったとおり良い反応を返してくれる猛に、オレは大満足だった。

 

「これね・・・昨日雅孝が猛くんに作ってやるんだ〜って張り切ってて、朝の4時まで作ってたのよ。」

 

「うわぁぁぁぁー!!ばらすなよっ母さん!!」

 

「いいじゃない、本当のことなんだから。この料理全部に、雅孝の気持ちがこもっているのよね。猛くんがこっちに引っ越してくるって聞いて、1番喜んでたもの。」

 

カァ〜っと自分の顔が赤くなっていくのが分かる。

オレが作ったって・・・。

しかも気持ちこもってるなんて言わなくても・・・母さんの奴〜。

 

チラッ・・・

 

猛の方を横目で見ると、目が合った。

猛もこっちを見ていたのだ。

 

「雅くん、ありがとう。すっごいうれしい。」

猛は本当に嬉しそうな顔で、ニコ――っと笑いかけてくれた。

 

――――― ドキンッ ―――――

 

オレは猛の笑顔に・・・・・・惚れてしまった。

 

 

 

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