幼なじみ(1)

 

 

 

 

 

ジリリリリリリ――――ッ!!

 

目覚まし時計が鳴り響いて、目が覚めた。

 

懐かしい夢を見たな・・・。

これはやっぱり・・・あれか。

猛が一人暮らしのために、隣りに引っ越してくるからなんだろうな。

引っ越してからの9年・・・?・・・いや、10年か。

 

電話も手紙も最初の1年も続かなかったから、ほぼ丸10年会ってもいないし、話もしていなかった。

小さいころの少年に、そんなに長く続くわけないだろ?

遊びたい盛りなのに。

もっとも、オレと猛の母親通しは10年間、電話や手紙のやりとりをしていたみたいだけど・・・。

 

2ヶ月前、炊けるから1通の手紙が来たときは、オレのこと覚えててくれたんだと少し嬉しくなった。

 

・・・手紙の内容は、とても短かったけど。

 

『雅くんへ。

元気にしてましたか?

今度の春からそっちの大学に通うことになったので、雅くんの家の隣りへ引っ越します。

引っ越し日は3月24日になると思うので、面倒だと思いますが雅くんにお手伝いの方お願いします。

猛より。』

 

敬語を使っているのは、長いこと会っていないからだろう・・・。

10年ぶりに見る猛は、どのくらい成長しているのか楽しみだった。

 

オレは・・・予定とは違う思惑の外れた方へ、成長してしまったけど・・・。

 

「雅孝――っ!!お隣りに引っ越しの車が来たから、早く着替えて手伝いに行ってあげなさい。猛くんは、自分の部屋にいてるはずだから。」

 

えぇ!?ちょっと来るのが早い・・・。

 

まさかこんなに早く来るとは思わなかった・・・。

記念すべき10年ぶりの友人との再会なのに、起きたばっかのご対面になるとは・・・。

 

この後オレは10分ですべて用意して、隣りのマンションへ向かった。

 

ピンポーン・・・ピンポーン・・・

 

確かこの部屋であってるはずなんだけどな。

あっ・・・ドアの向こうから足音がする。

 

―― ガチャ ――

 

「雅くん・・・?」

出てきた男の人は部屋から走ってきたのか、少し息が弾んでいる。

 

・・・・・こいつ、誰だ?

 

自分がチャイム鳴らしたのにも関わらず、そんなことを思ってしまった。

オレって・・・よく考えたら失礼な奴だよな・・・ははっ。

もしかして、部屋間違えた?

本当にオレってマヌケかも知れない・・・。

 

「すっ・・すみません!!部屋間違えました。」

慌てて謝りお辞儀をして、その場から逃げ出そうとした時・・・

 

「待って!!雅くん。ボクだよ!猛だって。」

 

オレの目の前に写っているのは・・・・・

背が高くて、引き締まった体していて、顔もモデル並みで・・・・・とてもじゃないけど、チビでガリで鼻水垂らしていた猛には見えない。

 

「ちょっと雅くん?何固まっているの!?もしかして・・・雅くん、ボクが猛って信じてないの?」

 

オレは無言でコクコクと頭を上下に動かして頷いた。

 

「そうだよね。ボク・・・小さいころの面影がどこにもないし。雅くんより背も大きくなったもんね。でも、正真正銘ボクは望月 猛だよ?ん〜っと・・・何を言ったらボクが“猛”だって信じてくれるのかな?」

 

オレは・・・まだボーッとしていた。

 

こいつが・・・猛ってウソだろ?どうしても信じられない。

 

けど次のこいつの言葉に・・・・・・驚きと同時にオレは“猛”だと認めるしかなかった。

オレと、猛と、両親しか知らないことだったのだから・・・。

 

「そうだ!!雅くんのオチンチンのすぐ横に、ホクロが3つ並んであったよね?」

 

 

「あははははっ・・・。」

 

まだ猛は腹を抱えながら、ククッ・・・っと笑っている。

 

「おい!いつまで笑ってるんだよっ。部屋片付けるんだろ!どこから片付け始めるんだ?」

 

本当にこいつ・・・ムカツク。

猛ってこんな奴だったか?

 

確かに10年も会ってなかったら、性格変わるかも知れないけど。

それにしても何か口調は優しげなのに、性格悪くなったような・・・。

 

「ごめんごめん。だって・・・雅くんの驚いた顔といったら、おもしろくて・・・。ぷぷっ・・ははっ・・・あぁ本当にゴメン。じゃあ、雅くんはそこに積んであるダンボールの中身から片付け始めてくれる?本が入ってるから奥の本棚に入れて欲しいんだけど・・・。」

 

 

ムカツキながらもオレは言われた通り、ちまちまと本を片づけ始めた。

隣りの部屋では猛が、重いものを一人で持って動きまわっている。

 

「なぁ、オレも手伝うよ。小物なんていつでも出来るし。」

 

何だか力の差を見せつけられたみたいで、少し悔しくなった。

オレにだって重い物ぐらい持てるんだからな。

 

そう思って猛が持っていたテレビを、取り上げたのは良いけれど・・・

 

「うっわ〜重っっ!?猛、オマエよくこんな重い物をラクラク持ててたな。」

あまりの重さに少ししか持っていられず、オレはすぐに床の上に置いてしまった。

 

「雅くんは自分の力の限度知っておかないと・・・。身長そんなに高いわけでもない、無駄な筋肉付いてなくて細い体なのに・・・そんなので重い物持てるわけないよ。」

 

これは・・・誉められているのか?けなされているのか?

本当に体が成長しているにつれて、口も成長しているな。

けど・・・オレだって10年前より少しは成長してるはずなんだけど・・・。

 

「10年前は猛の方が小さかったのに!!でもオレ、別に小さくないぞ。身長だって168cmあるし、まだ伸びてるんだから。成長期が遅れてるんだよ。2・3年後には、猛より高くなっているんだからな。」

 

ちょっと自身有り気に言ったのにあんまり迫力がないのか、猛は楽しそうに笑っている。

 

「実はボクもまだ背が伸びているんだ。それに今183cmだしね。こんなんじゃ、いつまでたっても雅くんはボクを抜くことが出来ないね。」

 

猛はニコニコと笑いながらオレが床に置いてしまったテレビを、ひょいっと担いでリビングの端に置いてしまった。

 

あぁ・・・やっぱり猛の方が力持ちだな。

ちょっと腹が立つけど認めないわけにはいかないし。

 

1日がかりで片付けが終わって、ホッと一息ついた。

 

「なぁ・・・今日母さんが猛を連れて来いって言ってんだけど。」

 

オレの母さんは昔から猛がお気に入りだった。

今日も部屋の片付け終わったら、“絶対に一緒に帰って来い”って言ってたし。

 

小さいころからお菓子の量も、実の息子のオレより猛の方が多かったような気が幼心ながらに覚えている。

 

でも・・・あんなに小さくてガリガリだった猛が、こんなに大きくなりすぎてたらビックリするだろうな〜。

   

そんなことを考えながら、少し遠慮気味の猛をムリヤリ家に引っ張り連れて帰った。

 

 

 

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