幼なじみ2(3)
「猛、痛い・・・。痛い。猛・・・・、たけ・・・る・・・、た・・・ける・・・。たける!!!」
猛の顔が、ハッとした表情になる。
大きな声に、やっと我にかえった猛は、オレの腕を掴んでいた手を離し、立ち止まった。
けど、猛はオレの方を見ようとしない。
猛・・・オマエは一体、何を考えているんだ?
それが分かれば、オレは苦しまなくてもすむんだ・・・。
「今ごろ、オレに用なんてないだろ・・・。オレ、祐希のところに戻る・・・。」
まだオレの方に背をむけている猛に、オレの心が動揺していることを悟られないように、慎重に言う。
オレが声を掛けても、猛は何の返事もしてくれない。
猛に連れ去られた時、少しでも猛と友達に戻れるかも知れない・・・っと思ったオレが馬鹿だったみたいだな。
あんなことをしといて・・・絶対にムリなことって分かってはいたけど。
猛はオレを許したりなんか、しないはずだから・・・。
分かってるけど・・・やっぱ辛いよな。
胸の痛みを遠ざけようとして、猛のそばから離れようと一歩踏み出した途端に、グイッと肩を掴まれた。
猛の力が強くて、思わず顔をしかめてしまう。
猛の両腕が、オレの背中にかかる。
ギュッと抱きしめられた背中から伝わる猛の体温を感じて、少し安心する。
この温もりが、オレだけのものだったら、どんなに幸せなんだろうか。
でも今は、猛が一体何を考えているのかが分からない。
「雅くん・・・・・・・。」
耳元で囁かれた言葉に、体中の力が抜けそうになって、猛に支えられる。
その瞬間、オレの唇は猛に奪われていた。
「んっ・・・、たけっ・・・るぅ。」
何!?
何でオレは、猛とキスしてるんだ!?
いや、違う・・・猛がオレにキスをしてきたんだ・・・。
いまさら・・・・・。
何なんだよっ・・・。
猛・・・オマエが全く分からねぇよ!!
分かりたくもない!!!!
そう思っていたら、猛の体を両手で突き放して、ビックリした顔をしている猛に叫んでいた。
「やめろっ!!好きでもないのに、キスなんかするなっ!!!!!」
大声で叫んでいる自分が恥ずかしくて、顔を赤らめて、俯いてしまう。
「なん・・・で・・・?なんで・・・キスするんだ・・・?」
色んな気持ちが、オレの中で入り混じって、その中でも悔しさが一番だった。
猛の軽がるしいキス。
そんなキスでさえ、少しでも嬉しいと思ってしまった自分。
触れただけのキスなのに、体中で反応してしまった体。
瞳からは、涙が少し、流れ出している。
「雅くん、ボクは・・・。」
「分かってる。・・・・・・・彼女と別れたから、オレに・・・。オレだったら、ちょっとキスでもしてやれば、着いてくるとでも思ったんじゃないのか?」
猛は、そんな奴じゃないのはわかっている。
でも、今のオレには、そうとしか思えない。
オレの好きな猛は・・・10年ぶりに再会した、幼なじみだから・・・。
「違うんだよ、雅くん。ボクの話を聞いて欲しい。」
「いきなりキスをしてきた奴の、何の話を聞けって言うんだよっ!!」
真剣な猛の顔が、オレ自身を見抜かれているみたいで、怖い。
「ボクは・・・。」
「聞きたくない!!もういい。分かってる。分かってるから。」
「分かっていない!!」
―――――っ!!!!!
初めて聞いた猛の怒鳴った声に、ビクッと体が震えた。
涙が込み上げてきて、瞳からはボロボロとこぼれ落ちる。
痛いっ!!
痛いっ!!
胸が痛いと、叫んでいる。
イヤだ・・・こんなの・・・オレには、耐えられない。
「た・・・ける・・・が、怒って・・・る。ゴメン。ゴメン。ゴメ・・・ン。」
猛の手が、オレの頬に触れようとする。
「イヤだっ・・・。」
猛に触れるたびに、胸が痛むのが嫌で、払いのけてしまった。
「あっ・・・・。ゴメンッ!!」
これ以上、猛のそばにいられなかったオレは、逃げ出してしまった。