幼なじみ2(4)
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。
猛のところから、逃げ出したオレは、精一杯走って大学のいつも人気のない場所までたどり着いた。
着いたときには、もう・・・息が絶え絶えだった。
「・・・・・・っっ!!なんで・・・猛は・・・・。バカヤロウ。」
その場にうずくまるように、しゃがみこんで目を瞑る。
流れ落ちる涙は、頬を伝って下に落ち、地面を濡らしている。
猛の唇、気持ち良かった。
猛を独り占めできるなら、騙されても良かったかも知れない。
猛が・・・オレのことを好きじゃなくても、少しの間だけ、猛とキスや体を触れ合うことが出来るんなら・・・。
それだけで・・・・・。
それだけで、満足だから。
そんな風に思えるから・・・。
でも、逃げちゃったよな。
全速力で・・・。
ははっ・・・。
どうしよう。
「とりあえず・・・今日はもう、こんな顔じゃ講義にも出られないから、家に帰って寝ようかな。」
祐希に会う元気も残ってないし。
何より、キスされて、どうゆう態度とったら良いのか、分からない。
ゆっくりと立ち上がって、オレは駅に向って歩き出した。
* * * * * *
「ただいま〜。」
あんまり足元がおぼつかないまま、何とか家までたどり着いた。
ゆっくりとドアを開けて、家の中にいるはずの母さんに聞こえるように、力のないオレは精一杯の声を出した。
キッチンの方から、母さんの声が聞こえる。
母さんの声を聞いて、家に戻ってきたと実感すると安心したのか、目の前が歪んで見えた。
あ・・・あれ?
何だ、これは?
家がグルグル回って・・・い・・・る・・・。
――――― ドタッ ―――――
全身の力が抜けて、立っていられなくなったオレは、玄関に倒れてしまった。
遠ざかる意識の中で、大きな音を聞いて駆けつけてくる母さんの姿が、ぼんやりと見えた。
少しずつ目を開いて、眩しい光の中に自分が戻ってきているのを感じていた。
オレは自分の部屋のベットの中にいた。
横には、心配そうに眺める母さんがいた。
「んっ・・・?母さん・・・・・・?」
どうしてオレは・・・・?
「母さんじゃないわよ!玄関のところで急に倒れるから、凄いビックリしたんだから。慌てて駆け寄って、おでこに手を置いたら、熱あるんだもの。雅孝が寝ている間に、熱測ったら39℃あるから、とりあえず解熱剤飲ませておいたけど・・・。」
久々に見た、母さんの動揺している姿だった。
けど、一気にまくし立てる母さんの声が頭に響く。
「か・・・母さん、声・・・でかすぎて、頭痛い。」
顔をしかめて、母さんに訴える。
「ゴメンゴメン。思わず声が大きくなりすぎちゃったのよ。」
“その分なら、元気そうね。”と言いながら、母さんはクスクスと笑った。
母さんが、オレのおでこに冷ピタシートを貼ろうとしていると、家のチャイムがなった。
「あれ?誰なのかしら・・・?ちょっと見てくるから、雅孝は大人しく寝てなさい。」
オレの部屋から出て行って、母さんは玄関の方へ向った。
インターホンで誰かと話しているみたいだったが、誰かまでは分からなかった。
「久しぶりねぇ。元気にしてた?最近、全然来ないから寂しかったのよ〜。」
すごい親しそうに、訪ねてきた人に話し掛けている。
母さんの知り合いは、全くと言っていいほど分からないから、誰が来ているのか予想がつかない。
「久しぶりです。由佳子さんも相変わらず元気そうですね。」
この声は!!!
たけ・・・・る・・・!?
え・・・あ・・・、う・・・どっどうしよう?
「あの、今、家に雅くんいてますか?」
「いてるわよ。けど、雅孝ったら熱出しちゃって、部屋で寝込んでるのよ〜。」
「え・・・!?雅くんが?」
「めったに風邪なんか引かないんだけど。なんか、あったのかしら?・・・あっ!そうだわ!猛くん、雅孝の様子見てやってくれない?私、ちょっと買い物に行かなくちゃならないんだけど・・・。」
心なしか、母さんの声が嬉しそうに聞こえる。
絶対に、何か企んでる時の声だ。
母さんのニンマリしている顔が浮かんでくる。
クソッ!!
「いいですよ。ボクが雅くんのこと看てるんで、買い物行ってきてください。」
だぁ――――。
猛の奴、一体、何考えてるんだ!?
オレはオマエから逃げたんだぞ?
ほっておいてくれよ・・・。
“じゃ、お願いね〜。”と、母さんの声が聞こえてきて、しばらくして玄関のドアが閉まる音もした。
トン。トン。トン。
猛が階段を上ってくる。
少しずつオレの部屋に、近づいてきてるのが分かる。
階段を上る足音が聞こえなくなったと思った瞬間、オレの部屋のドアを叩く音が鳴った。
「雅くん・・・?猛だけど、入っても良い?」
どう答えていいのか分からなくて、声が出ない。
「寝てるの?・・・・・入るね。」
ドアが開かれて、猛が入ってきて、ベットの前で猛が止まり、ベットの端に腰を下ろすのが分かる。
オレ・・・どうしたら良いんだ?
猛がオレのところに訪ねてくれるなんて、あの日以来なかったのに。
「雅くん・・・。寝ててもいいから、ボクこれだけは言いたいんだ。」
猛は、一呼吸を置いて、ゆっくりと話しだした。
「あんなことあって、一度は雅くんを恨んだんだ。」
猛の“恨んだ”という言葉に、胸のところがチクチクする。
「けど、あの日から雅くんを忘れられなくて、毎日毎日雅くんが頭から離れなくて・・・。自分の気持ちにやっと気付いた時には、雅くんのそばには祐希がいた。でも、諦められなくて。」
オレの髪の毛を手グシで梳く猛の手が、心地よい。
「今日、祐希はボクが見てるって気付いてて、雅くんにキスをしたんだ。それを見たら、何も考えられなくなって・・・。ボクの今の偽りのない気持ち・・・雅くんが好きなんだ。」
猛の声が、少し震えている。
オレ・・・信じて良いんだよな?
うれしい・・・、うれしい・・・。
体中が震えて、眼からは涙が溢れ出してくる。
上半身を起こして、猛の方を見た。
「猛・・・。オレも猛が好きだ。ずっと好きだったんだ。」
オレが言った途端、猛はオレをキツク抱きしめて、オレの目に浮かんでいる涙を唇で吸い取った。
そのまま、オレの唇と重ね合わした。
今までの過去を振り返りながら、長い長い口づけをした。
もう二度と離れないと、お互いに誓い合いながら・・・。