幼なじみ2(2)
また・・・だ。
最近、よく視線を感じるようになった。
その視線の先には、必ず猛がいた。
痛っ・・・。
その視線が痛くて、オレの胸に突き刺さる。
思わず、視線が合ったとたんに、目をそらしてしまう。
どうして、いまごろ・・・?
* * * * * *
「祐希。ちょっと相談が、あるんだけど・・・。」
今では、1番頼りになる・・・そして、オレを支えていてくれる祐希に聞いてもらおうと、講義を抜け出して相談を持ちかけた。
祐希は、少し意外そうな顔をしたけど・・・柔らかく包み込むような微笑で、頷いてくれた。
講義を抜け出して、日陰にあるベンチ――前に祐希に告白された場所――にもたれかけた。
「話してみろよ。雅のことだったら、何でも助けになってやるさ。」
前に話したことも含めて、最近の視線のことを話した。
祐希は、静かに頷きながら、イヤな顔を一つもせずに聞いてくれた。
祐希は・・・優しい。
「それから・・・最近よく視線を感じるんだ。その視線の先には、猛がいることが多いんだ。その時の、猛のこっちを見る目が怖い。すべてを見透かされてる気がするんだ・・・。」
猛のことが好きだから。
あの時のことを、後悔している。
猛に見られると、許されない自分を見られている気がする。
好きなのに・・・好きだからこそ・・・怖い。
猛が・・・怖い。
祐希は、ちょっと考えてから、“あっ”と小さな声を出し、悲しそうに笑った。
「何が分かったんだ?オレ・・・どうしたら良いんだろう。」
いつから、こんなに弱くなったのかな・・・オレ。
以前のオレは、猛と出会うまでは、他人からは‘冷静沈着’と思われていたし、オレ自身もそうなんだと思っていた。
うな垂れているオレに、祐希は頭をポンポンと軽くたたいてくれた。
「大丈夫だって。オレは、雅の味方って言ったろ?オレに、まかせてみないか?」
「・・・・・・・うん、頼むよ。」
* * * * * *
「じゃあ、何をしても文句はなしだからな!!」
祐希は、そう言うと、チラッと茂みの方を見て、オレに唇を押し付けてきた。
「んっ・・・ゆうっきぃ・・・。」
猛とのことがあってから、祐希にはずっと支えになってもらっていた。
“いつまででも、待ってる”と言ってくれた祐希は、オレに何もしてこなかった。
それが・・・・・。
急の出来事に、目を見張った!!
柔らかく押し付けられた唇は、後ずさんだオレの唇を抑えて離さなかった。
「んんっ・・・、んっ・・・。」
息を吸おうとして、少し開いた唇に、柔らかくて生ぬるいものが入り込んできた。
無意識に逃げようとするオレの舌を、器用に捕まえて、ねっとりと絡ませてくる。
絡ませられた舌からは、祐希の唾液が流れ込んでくる。
クチュッ
お互いの唾液が、混ざり合う音が耳に入ってきて、顔が熱くなるのが分かる。
「やっ・・・、め・・・・んぁ。」
唇を離そうとしても、祐希の力が強くて、離れられない。
一体どうして・・・・。
待ってるって言ってくれたんじゃなかったのか?
なのに・・・いきなり・・・。
―――― ガサッ ――――
――――!!!!
見られた!!
「そこにいるのは、誰だ!?」
芝生の茂みから、聞こえてきた音のした方向を見ていると・・・出てきたのは、猛だった。
たけ・・・る・・・・・。
どうして、こんな時に・・・。
猛と話さなくなって、目も合わさなくなって、すれ違っていたのに・・・。
どうして・・・?
どうして、こんな時に限って・・・・。
猛として以来、初めてのたった1度の他の人とのキス・・・。
猛に、見られた。
“オレは、キスをしたくて、したんじゃない!!”
すごい声に出して、言いたかった。
けど・・・言い訳がましく聞こえるのだけは、イヤだった。
「猛―、他人のキスしてるところを覗き見して、何が楽しいんだ?さっさと違う場所に行ってくれないか?いくら‘友人’でも、恋人とのキスを見られたくないんだけど。」
思わず祐希の言葉に、目を見張った!!
祐希の顔を見ても、平然としている。
「祐希・・・何言って・・・、んんっ・・・。」
口元を、祐希の唇でふさがれて、言葉を遮られた。
−−−どうして・・・猛の前なんかで、キスをするんだ!?−−−
「雅くん・・・・・・・。」
2度と猛から、名前を呼ばれるとは思わなかった。
けど、猛の顔を見ると、あの時の事が脳裏に浮かんできて、オレを苦しめるんだ。
猛の顔を直視できずに、視線を泳がせていると・・・強い力で、腕を掴まれた。
「痛っ・・・。猛、痛い!!腕、離せよっっ!!」
オレの言ってることを聞いているのか、聞いていないのか・・・・猛は何の反応も返さずに、オレの腕を引っ張って歩いていく。
祐希は・・・?
祐希・・・オレ・・・イヤだ。
怖い・・・助けてくれ。
振り向いて祐希の方を見ると、さっき見た悲しい微笑みを浮かべて、何も言おうとしない。
どんどんと歩いていく猛に引っ張られて、だんだん祐希がいるところから、遠ざかっていく。
「猛・・・・・。」
声をかけても、猛は足を止めようとしない。
猛にぎゅっと握られた腕が、痺れてきて・・・痛い・・・。
腕と同時に、胸も・・・痛い・・・。
猛に触れられていることで、痛いのに、どこか嬉しく思っている自分がいる。
「猛、痛い・・・。痛い。猛・・・・、たけ・・・る・・・、た・・・ける・・・。たける!!!」
腕も痛い。
胸も痛い。
心も痛い。