ビジネスライク(4)
−布施 秋久−
今日は枚方を外回りに連れて行くことにした。昨日やった会議にも関わっている取引先に連れて行く予定だ。会社から行くと時間の無駄になるから、外で待ち合わせをすることにした。
待ち合わせの9時半少し前に待ち合わせ場所につくと、すでに枚方は俺を待っていた。
「早いな。」
「布施さんを待たせるといけないと思ったんで。実習にきてる間は、布施さんが上司ですから。」
「そうか。」
学生にしてはしっかりしている。社会人になったら、枚方はきっと使い物になるだろうな。
取引先までは徒歩で5分程度。
経験になるだろうと思って連れて行くが、ここの社長には気をつけないといけない。枚方みたいな奴を見ると、すぐに手をつけたがるからな。そう言えば、京橋の時も大変だったな。
取引先について受付に行くと、来ると伝えられていたのか待つことなくすぐに通された。枚方を促して受付で言われた会議室へ行くと、営業部長とここの社長がいた。
営業部長と話すだけなのに、おかしいと思ったんだ。部長だけなら営業のブースでもいいからな。
「久しぶりだね、布施くん。先月ぶりかな?布施くんが来ると聞いて、私もぜひ参加させてもらったよ。…おや?その子は誰だい?」
嬉しそうに社長はこっちに寄ってくる。俺の隣りで緊張している枚方を目ざとく見つけて聞いてきた。
「実習生の枚方です。今日はせっかくのなので連れてきたんですよ。」
本当はあんたみたいな変態社長がいてる会社には連れてきたくなかったが。毎回、俺が来るたびに現れて、腰やケツや太腿を触ってきやがる。セクハラだと訴えたいぐらいだ。
取引先との会議は、俺が社長を睨みながら進めたため、社長に邪魔をされることなく終えることが出来た。
「お疲れ様でした。では、これで失礼します。」
早々に枚方を連れて会議室を出て行こうとしたら、さささーと社長が寄ってきて、俺ではなく枚方に声をかけた。
「枚方くんと言ったね。来年はもしかして就職活動かい?」
「えっ、あ、はい。そうですけど。」
「ここで会ったのも何かの縁だ。良かったら来年、私の会社の面接を受けにおいで。ほら、私の名刺も渡しておくよ。」
ちゃっかり社長は枚方と握手までしている。枚方も枚方で、社長の思惑など気付かないようすで、嬉しそうに社長に答えている。
「本当ですか!?うわー、ありがとうございます!ぜひ、伺わせて頂きます。」
いつまで経っても手を離そうとしない社長にイライラして、思わず怒鳴ってしまった。
「枚方!いつまでそこにいるんだ。帰るぞ。」
「すっ、すみません!」
枚方は慌てて社長から離れて、俺のそばに来た。社長は残念そうな顔をしながらも、ニコニコと枚方に手を振って「またおいで〜。」とか言っている。それに枚方もいちいち答えるから、俺のイラつきも倍増だ。
どうしてこんなにイライラするんだよ。枚方のことが可愛いと言っても、こんな風にイライラするなんて始めてだ。俺は社長に嫉妬している。枚方に触るのは俺だけでいい。とんでもない独占欲だ。
社長の方を見ている枚方をおいて、そのまま歩き始めた。枚方はそんな俺に気付いて、慌ててついてきた。
−枚方 泉−
「すみません。布施さん。」
「どうして謝るんだ?」
言えないって。布施さんが何だか怒っているように見えたからなんて。
どう言おうか迷っていると、布施さんが俺の頭を手のひらでポンポンと撫でてくれて「行くぞ。」と言ってくれた。
あ…優しい。怒ってない。やっぱり布施さんはいい人なんだ。
横に並んで歩いているときに、時々、布施さんの手が俺の手に触れる度に、そこが暑くなる。心臓がドキドキする。どんどん布施さんに惹かれていく気がする。
どうしよう。男の人なのに。好きになんてなっちゃいけないのに。このままだと俺は…どうしようもないぐらい、布施さんを好きになる。
少し遅めのお昼を食べて、近くの最寄駅から会社へ帰るための道のりを歩いていると、ポツポツと空から水が落ちてきた。
「雨か。」
布施さんが呟く。
会社までは後5分ぐらいだ。布施さんと俺は小走りに会社に向かったが、ポツポツときだしてから、ものの1分もしないうちに大雨になった。会社に着く頃には、俺も布施さんもべちょべちょに濡れていた。雨で急に気温が落ちたのか、雨で濡れたからか、だんだんと寒くなってきた。
「タオルを取ってくる。」
布施さんはそう言って、すぐそばにあった医務室らしいところに入り、バスタオルを2枚持ってきた。
「ありがとうございます。」
「いや、まさか雨が降るとは思わなかった。」
「ほんとですね。通り雨みたいですけど…。」
布施さんのワイシャツは濡れて、身体に張り付いている。そこから分かるのは、無駄の無い体つきだった。
思わず見惚れてしまった。俺の身体の中心が熱くなるのを感じて焦った。何でこんなときに反応するんだ!?布施さんの身体をみて欲情するなんて…。俺、やばい奴みたいじゃないか。