ビジネスライク(2)

 

−布施 秋久−

会議で使う手書きの汚い紙を、枚方は綺麗にワードに打ち込んで、俺のところまで持ってきてくれた。

こんな汚い文字を結構早く持ってきたな。俺には絶対にこんな短時間でしようなんて思わないけど。あえてさっき会っていた部長の文字だとは言うまい。言ったら部長のイメージが壊れそうだしな。

「あの…次は何をすればいいですか?」

「社内の案内がまだだろう?着いて来い。」

少し俺の仕事にもきりがついた。

社内を案内している間に数人に声をかけられ、連れて歩いてるのは誰だ?と聞かれまくって答えるのが大変だった。実習生ってのは珍しいものなんだろうか。それとも俺が誰かをついて歩いてるのが、珍しいのか…。まぁ、後者だろうがな。

一回り社内を歩いてデスクに戻ってきたときには、5時を少し過ぎたところだった。

「今日は、終わりだ。」

初日だからきっと疲れているだろう。

枚方はさほど顔には見せないが、やっぱり疲れていたのだろう、表情が明るくなった。そんな枚方の様子に、思わず無表情の俺の顔も緩みかけた。枚方は下を向いていて気付かなかったが。

「今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします。……あの、布施さんはまだ仕事ですか?」

「あぁ、もう少しな。」

実習生の枚方に興味を持ってしまいチラチラと見ていたため、俺の仕事のはかどりが悪いのだ。自業自得とも言う。

「布施さんも忙しいのに、本当にすみません。」

「気にするな。」

「明日は、何時にこればいいですか?」

「…9時に来れるか?」

「はい、大丈夫です。9時に布施さんのデスクにくればいいですか?」

「そうだな。」

「分かりました。じゃあ、お先に失礼します。」

泉は深々と俺に御礼をして、会社を後にした。明日も会うのが楽しみになってきた。

 

2日目

−枚方 泉−

「おはようございます。」

俺が9時ピッタリに布施さんのデスクに行くと、布施さんは随分前から会社に来ているみたいだった。帰るのは遅いし、来るのが早いって…社会人は大変だよなー。

「おはよう。」

布施さんっていっつも必要以外のことは話さないよなぁ。ずーっと無表情だし……不機嫌そうな顔してるし、俺の面倒見るの、嫌なんだろうか…。実習生の面倒って、だるそうだもんな。自分で言うのもなんだけど。

「9時半から会議があるから、それに参加してもらう。」

「え?俺も行っていいんですか?」

「あぁ。」

まさか会議にまで出席できるとは思わなかった。きっと雑用ばかりさせられて、4日間が終わるんだと思ってたのに。

布施さんはデスクに並べられていた書類をかき集めて、足りないものはないかとチェックしている。その書類の一部ずつを俺に渡してくれて、俺を促しながら昨日案内した会議室へと向かった。

「さっき渡した書類が今日の会議で使うものだから、大事に持っていろ。」

「はい。」

会議室に着くと、書類の一部ずつをまとめて、イスのある場所に並べていく。その資料の中には、昨日俺がワードでまとめた書類もあって、大事なことを任されていたんだと、俺は嬉しくなった。

会議の人数は、俺と布施さんを合わせて、全部で10人。9時半きっかりに始まった会議は、布施さんのしっかりとした資料と説明により、滞りなく終わった。

うわー。布施さんぐらいの年になると、こんな風に堂々と会議でも説明が出来るんだな。それとも布施さんが有能なのかな?うーん、後者っぽい気がする。

布施さんの仕事っぷりを真近で見ていた俺は、すっかり布施さんを尊敬の眼差しで見るようになっていた。それと同時に、何だか尊敬とはまた違った気持ちがもやもやと俺の中に生まれていた。

この気持ちって…ちょっと息が苦しくなるような、布施さんを見ると顔が熱くなったり……俺って…もしかして、変?

まさか…なぁ?

それは今まで女の人に向けられていたような気持ちで、今回ばかり何故に布施さんにそんな気持ちがいったのか分からず、俺は無意識のうちにその気持ちを隠そうとしていた。

 

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