Under The Sun<前編>

 

 

 

 

 

月に一度の服装・髪型検査の日だった。

違反の常習者である俺は、ビクビク……なんてそんなものはない。

むしろ、いかにそこを突破するか…を目標にしていた。

委員長さえいなければ、余裕の突破になる。委員長は俺の天敵だった。

 

徐々に学校の門へと近づく俺は、視力が2.0ある目を凝らしながら、門の前に誰が立っているのかを観察した。

門の前には、腕に『風紀』と書かれた腕章をつけている風紀委員と思われる奴らが3人立っていた。その中に、委員長はいない。

しかし…俺はいつも風紀委員が4人立っているのに、今日は3人だという肝心なことを忘れていた。

 

よし。今日は楽勝だな。

アイツさえいなければ、こっちのもんだ。

 

俺は脚の屈伸を2・3度繰り返して、門に向ってダッシュし始めた。

門の前に立っている3人の風紀委員の横をすり抜けて門の中へと入ることに成功した。風紀委員も前は幾度となく俺を捕まえようとして追いかけていたが、最近になって追いかけても追いつけないと分かった時点で、諦めたらしい。

俺には好都合だけどな。

身体が小さくて(自分で認めたくはないけど。)すばしっこい俺を捕まえられる奴なんて、そうそういない。風紀委員の間では、俺は『コザル』と呼ばれていた。

こんな可愛い少年を捕まえて、何が『コザル』だっつーの!!

 

 

突然、走っている俺の目の前に人が現れた。

だからって全速力で走っている俺が止まれるはずもなく、俺はその人物に勢いよく激突してしまった。

 

「いってぇ――――!急に人の前に出てきてんじゃねーよ。馬鹿かお前は!俺の大事な鼻が潰れたりしたら、どう責任取ってくれるんだっ!」

 

俺は鼻を抑えて怒鳴りながら、激突した相手から離れようとした。

―――がっ!!

そいつの両手にがっちりと身体を押さえつけられて、そいつから離れることができなかった。俺の全力の力を出し切ってもビクともしない腕にムカついて、爪で引っかこうとした。

 

「ちょっ……離せよっ、馬鹿野郎!」

 

「おぉっと……爪で引っかいたら怪我するだろう?ホント……『コザル』と言うよりも、『ヤマネコ』のが正しいみたいだね。」

 

その声は俺がもっとも苦手とする奴の声だった。

俺より背の高いそいつの顔を確かめようとして、俺は恐る恐る見上げた。

整えられた調度良いぐらいの長さでセンター分けの髪型、細いフレームの眼鏡、腕に安全ピンで付けられた腕章………。

 

「い………委員長。」

 

「そんなに服装・髪型検査で捕まりたくないなら、髪の毛を元の色に戻せばいいのに。ね、髪の毛を真っ赤に染めた、1年D組の海堂 深貴(かいどう みたか)くん?」

 

委員長と分かって余計に逃げ出したくなった。けれど、細身の長身のどっから?って思うぐらい委員長の腕の力が強くて、俺がどんなけ腕の中で暴れても一向に離そうとしてくれない。

 

くっそ〜。いくら俺の身長が小さいからって、馬鹿にしやがって!俺との身長差が20cm以上あるからって!!

ちょっと頭良いからって、ちょっと真面目だからって、ちょっと―――――あぁ、もう!!こいつ…本当に嫌いだ!

 

「いくら何でも、その真っ赤な頭は見逃せないね。もう5回も捕まって、その度に注意して見逃してあげてたのに、まだ懲りないんだ。

―――しょうがないから、罰を受けてもらおうかな?原稿用紙5枚の反省文で見逃してあげる。たったの2000文字だから、それぐらいは書けるはずだよね?いくら頭の悪い海堂 深海くんでも。

放課後、反省指導室を空けておくから必ずくるんだよ?来ないと、次に捕まえたとき、その場で5000文字の反省文を書いてもらうから。」

 

委員長の俺を見る目が恐いって…。

眼鏡がキラリ〜ンと光るってのは、こういうことなんだよな…。

 

委員長は俺に言うだけ言って、門のところに立っている3人の風紀委員のところへと歩いていった。

その後ろ姿を見ながら、俺は『ぜってーイか行かねー。』と心に誓った。

 

 

 

 .。・:*:・`☆、。・

 

 

 

結局、午前中の授業をひたすら寝つづけてもまだムカムカする俺は、午後の授業をサボるために悪友の浩之(ひろゆき)を屋上へと道連れにした。

浩之は俺の一番のダチで、中学の時から2人で行動することが多くて、今では高校まで一緒だ。

浩之は男の俺から見ても、男前だと思う。今、タバコを吸っている姿なんか、絶対惚れるに決まってる。すでにこの学校で、いたいけな少年が浩之の餌食になっているのだから。

 

「浩之、俺はタバコが嫌いだっていつも言ってるよな?なのに毎度毎度サボるたびに、タバコ吸ってるってどーゆーことだよっ。」

 

俺は屋上の金網にもたれている浩之のタバコを奪い取って、履いている革靴でコンクリートの地面の上で踏み潰した。

浩之はあからさまに眉間にしわを寄せた。

 

「う〜わ〜。もったいないことするなよなぁ〜。せっかく今吸い始めたばっかりだったのに……。はぁっ、これだからタバコも吸えないお子ちゃまは………なぁ、『みっくん』?」

 

「『みっくん』って変なあだ名で呼ぶんじゃねー!!深貴だ、み・た・か。」

 

ペッタンコになったタバコを見て、しょーもないあだ名で俺の名前を言う浩之にムカついて、ゲンコツで頭を殴ってやった。

 

「ただでさえ、朝から機嫌が悪いってのに……お前まで俺の機嫌を悪くするな。」

 

「あぁ、そういえば委員長に捕まってたな。」

 

「おい………知ってたんなら助けに来いよ。」

 

「4階の教室にいたのに、どうやって助けに行けって言うんだ?馬鹿かお前は?……で?ついに強制連行でもされたのか?」

 

強制連行…って言うか、来いってゆー命令…?と思いながらも俺は朝の委員長との会話を、そっくりそのまま浩之に話した。

絶対に浩之は『サボれば?』とか言うと思ってた俺の予想は、全くもって外れてしまったらしい……。浩之の奴…あっさりと俺を切り捨てやがった。

 

「行け。」

 

「え゛ぇ〜何でだよ〜。ぜってー嫌だ!」

 

とてもじゃないけど2000文字も反省文なんて書いてられない。サボって5000文字も嫌だけど、捕まらなかったら良いんだし?

 

俺が寝っ転がってダラダラしながらアクビをしているのを呆れて見ていた浩之は、制服のうちポケットの中からタバコを取り出し、また吸い始めた。

そんな年上ぶっている浩之を俺が睨むと、浩之はタバコの煙を吐き出しながら笑い出した。

 

「クックックッ………深貴、お前ホントに可愛いな〜。特にそのスネた顔とか女よりかいけてるぞ?」

 

「男がそんなこと言われても、ちっとも嬉しくないんだよっ!もう、いいや。俺、帰るから。」

 

俺は起き上がって、晴れた空に向って背伸びをする。

これをすると、たった159cmしかない身長が160cmに伸びた気になるんだよ。

 

浩之をほったらかして屋上を出て行こうとする俺に、浩之はとどめの一発を俺に喰らわしてきた。

 

「深貴が委員長から逃げれるとは思えないから、今日サボらずに行けよ?何回見逃してもらってると思ってんだ?

髪の毛真っ赤に染めるとか自分のしたいことしてもいいけど、他人に迷惑をかけるな。」

 

俺はグッサ―――と痛い所を、何箇所も突き刺されたようだった。

振り返って浩之に対して大声で叫ぶ。

 

「分かったよ。行けば良ーんだろ!行けば!!

けっ………浩之のバーカ、アホー、へんこたれっ!!」

 

俺のお馬鹿な言動に笑っている浩之を睨みながら屋上を出て行った俺は、笑い終わった浩之が一人呟いているなんて全然知らなかった。

 

「深貴には悪いが、これ以上委員長からグチ聞かされるのはマジで嫌だからな。

深貴の奴………委員長が俺の従兄弟だなんて思ってもないだろーな。」

 

 

 

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