君と出会うために(10)
「由良、凪くん・・・2人とも、ここにいるって聞いたんだけど・・・もうそろそろ、帰るぞ。」
トイレに入ってきた人は、声で誰だか分かった。
由良のマネージャーの仲原さんだ・・・。
やばい・・・。
この状態・・・どう返事したら良いんだ?
2人で1つの個室に入ってるのに・・・。
ばれたら、怒って由良と引き離されて、会えなくなるかも知れない・・・。
それだけは、イヤだ!!
仲原さんは1つだけ閉まっているドアに、少しずつ足音を立てて近づいてくる。
由良の表情は、さっきの色っぽい顔とだいぶ違って・・・青ざめている。
由良をしっかりと抱きしめて、おでこにキスを落とす。
大丈夫だよ。
オレ達が入っているドアを叩く音が聞こえた。
「由良・・・?それとも凪くんか・・・?」
「あっ・・・オレ、凪です。・・・・・ちょっと腹の調子が悪くて・・・。」
「そうか・・・由良はどこに行ったか、知ってるかい?」
「先に・・・スタッフルームに戻ったみたいですけど・・・。」
頼む!!
これで納得して、トイレから出て行ってくれ。
「じゃあ、どっかですれ違ったのか?一度、スタッフルームに戻ってみるか。」
ホッ・・・・・なんとか。
なったみたいだな。
仲原さんが、“お大事に”と言いながらトイレから出て行く音がした。
オレも由良も・・・体中の緊張が取れて、お互いに笑顔になった時だった。
「な〜んて、出て行ったと思ったのか?分かってるんだよな〜。由良もその中にいるんだろ?・・・・・だいたいな、撮影の時から2人とも・・・とろけそうな笑顔してるんじゃないぞ。あそこにいたカメラマンやアシスタントの人達にまで、バレているんじゃないか?」
仲原さんは、もう1度オレ達が入っている個室のドアを叩いて、“出て来い”と促した。
観念するしかなさそうだな・・・。
由良は強くオレの手を握り締めて、カギを開けて仲原さんの前に出た。
由良に引っ張られるような形で、オレも由良の横に立った。
「仲原さん。ボクは・・・凪のことが好きなんだ。だから・・・」
「分かってるって。反対とかはしない。ただ言いたいのは、そーゆーことするのは・・・家に帰ってからにしろ。送っていってやるから。」
えぇ!?
そーゆーことって・・・仲原さん、オレ達がしてたこと分かってるのか?
困惑しているオレらに向って、仲原さんはニヤッと笑みを浮かべている。
「じゃあ、2人ともスタッフルームで着替えて帰るぞ!!」
やっぱり帰りも、超スピードで車を走らせている・・・。
「着いたぞ。由良、凪くん・・・後は2人で仲良くやってくれ。次の仕事が入ったら連絡するからな。」
車から降りて、由良の“コーヒーでも飲んでく?”との誘いを受けて、由良の家にお邪魔した。
これは・・・もしかして。
「はい、凪・・・コーヒー。」
「さんきゅー。」
もしかして・・・由良は・・・OKってことなのか?
あのまま、オレは自分の家に帰ることが出来たけど・・・。
自分の家に誘うぐらいだし・・・。
あーゆーことの続きをしても・・・・・。
「由良・・・。」
コップをテーブルの上に置き、そっと由良を抱きしめた。
耳元で囁くように、由良に聞いてみた。
「オレ・・・由良のすべてが欲しい・・・。続き・・・しても良いのか?」
由良は、ゆっくりと頷いて・・・ゆっくりと言葉をはき出した。
「うん・・・良いよ・・・・。」
後日………。
オレと由良が撮影して撮った写真は、雑誌のポスターにまでなってしまった。
学校の連中に大騒ぎされて、仲原さんからは・・・“本気でモデルになれ”と言われる始末。
けど・・・オレと一緒に写っている“世良”が由良ってことは、秘密。
オレと由良の関係も、秘密。
秘密の関係も・・・楽しいかも知れない。