1話


 

 

人生は分からないものだと思う。今日こそはと思っていた英語の予習だけど、よりによって教科書を学校に忘れてきてしまった。毎回当てられる度に予習をせずに怒られっぱなしだった。

ついに切れた英語の先生から、『これ以上予習してこなかったら、1週間罰としてトイレの掃除!』を言い渡されたのだ。だから、明日までに予習を必ずしてこなければならない。友達に見せてもらえばいいじゃないか?と思うのだが、毎週1時間目にあるため、誰にも見せてもらう時間がないのだ。

 

そんなこんなで、今、俺、森岡玲二(もりおかれいじ)は暗闇の中で自転車を漕ぎ、暗闇の中で校内を手探りと感で歩いていた。家を出たのが10時過ぎだったから、すでに10時半は回っているだろう。

 

「ふわああぁぁぁ。」

止める間もなく欠伸が出てしまった。このまま教科書を見つけて帰っても、明日の予習を出来るのか自信がなくなってきた。

 

俺はいつも日付が変わる前に寝てるんだよな…。予習…諦めて、トイレ掃除でもするしかないかも。う〜でも、一週間はつらいなぁ。

 

毎日勉強している自分の教室の前について、ゆっくりと音を立てないように扉を開けた。相変わらず暗い。当たり前である。

「たしか、廊下側から2番目で、後ろから3番目の机だよな。あー、よく見えないぞ?こんなことなら懐中電灯でも持ってくれば良かった。」

誰もいない夜の教室で一人しゃべっているのって、何か虚しいのだが、そうしないとあまりに無音で緊張する。探って探って、月明かりに一つずつ照らしながら、本を確かめていく。6つ目にして、ようやく見付かった。

 

「やっと見付かった。さっ、長居は無用だ。さっさと帰ろっと。」

来たときと同じようにこっそりと扉を閉めて、こそこそと廊下を歩いていった。

行きと違って教科書が見つかったことで、気分は比較的、楽になっていたのか、俺の足取りは軽かった。3階にある教室から、2段飛ばしで階段を下りていく。

 

ちょうど1階と2階の間のところで、誰かにぶつかった。

「いった……。」

暗闇なので、誰なのか全く分からない。というよりも、こんな時間に俺以外にも学校に来ている奴がいるのか?ということが不思議だった。

 

ぶつかった人物は階段を1つ分下だったのにも関わらず、俺よりも少し背が高かった。ちょうど俺のオデコが相手の鼻に当たったから、普通に並べばかなり差があると思う。

相手は何も言わずに階段を上っていった。

「おい!謝れよ。」

俺の声に相手は一瞬立ち止まったが、すぐにまた動き出した。こんな暗闇の中で誰だか分からない奴に文句を言っててもしょうがない。俺はさっさと帰ろうと思って一歩を踏み出した。

 

ん?

今、何か踏んだかも…。

階段の真ん中に座り込んで、踏んだと思われる薄っぺらい何かを拾った。

なんだろ、これ。

とりあえず暗いため、外に出てから月の光で照らしてみようと思い、階段を1階まで下りた。自転車を止めてある校門の所まで歩きながら、さっき拾った薄っぺらい物を手で月の方にかざした。

あ、生徒手帳。

いつも自分も持っている生徒手帳だったから、すぐに分かった。誰かまでは分からない。帰ってから見よう。

 

俺が校舎から歩いて自転車に乗って去っていくところを、ぶつかった相手がどこかの教室の窓から見ていた…なんてことに全く気付いていなかった。

 

 

家に帰って自分の部屋に帰ってから、せっかく取りに行ってきた英語の予習もせずに、地べたに座り、さっき拾った生徒手帳と睨めっこをしていた。

俺に拾った生徒手帳の持ち主は…狭山慎一郎(さやましんいちろう)。

 

こいつは、曲者だ。

隣りのクラスの狭山は、とりあえずやたら背が高い。、多分さっきの階段でぶつかったのからいけば、168cmの俺よりも20cm以上の差があるだろう。190cmはあると聞いたことがある。そんでもって、廊下ですれ違うたびに、人を見降ろしてくる。たまにしか学校に来なくて、目つきが悪くて周りから恐れられている。来たと思えば、授業をサボりまくってると聞いたことがある。

 

べっ…別に俺が聞きたくて聞いたわけじゃないけど。聞かなくても勝手にウワサが回ってくるだけの話だ。どうしてあいつが、夜の学校なんかにいるんだ…?まっ、俺には関係ないことだけどさ。

 

明日、この生徒手帳を返さなければならないのか…とか思いつつ、俺は予習もせずに、悩みながらベットに寝転び、そのまま寝てしまった。

 

 

 

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