戸惑いの気持ち・猛視点(後編)
―――っ!!!
いきなり大きく叫んだ雅くんの声に、驚いて我に返り、雅くんの手を離して立ち止まった。雅くんの腕には、ボクが掴んだ後が赤く残っていた。
一体ボクは・・・・。
雅くんに何を、しようとしてたんだ?雅くんの腕を傷つけてまで・・・。
雅くんの顔を見ることが出来ない。思わず背を向けてしまう。
「今ごろ、オレに用なんてないだろ・・・。オレ、祐希のところに戻る・・・。」
用は・・・・・、あるのかな・・・・。
祐希から雅くんを、離したかっただけなんだ。
そんなこと、言えないじゃないか。
雅くんは、もうボクのことを好きじゃないかも知れないのに・・・そんなこと言われたら迷惑に決まってる。ボクは、もう一度、雅くんと抱き合いたい。
雅くんの足音が、1歩耳にはいる。今、離れてしまったら、もう・・・2人きりにはなれない。そう思ったら、雅くんの肩を掴んでいた。
雅くんの顔が、しかめているのが分かる。
雅くんの背中から手を廻して、ギュッと抱きついた。雅くんの温もりが、ボク自身に伝わってくる。
この温もりが、ボクだけのモノだったら、どんなに幸せだろう。
雅くんの気持ちが、知りたい。
「雅くん・・・・・・・。」
抱き合う格好から、必然的に耳元で囁くと、ボクにもたれ掛かるように、力が抜けている。
そんな姿が、愛しくて・・・ボクは、雅くんの唇を奪っていた。
「んっ・・・、たけっ・・・るぅ。」
・・・・・。
雅くんと、キスしてるんだ。雅くんが、もたれ掛かってきて、つい・・・。
つい・・・?ううん、ボクは雅くんにキスがしたかった。
雅くんは、押しのけるようにして、ボクを突き飛ばした。
ビックリした。抵抗された。やっぱりボクのこと、もう好きじゃなかったんだ。
「やめろっ!!好きでもないのに、キスなんかするなっ!!!!!なん・・・で・・・?なんで・・・キスするんだ・・・?」
好きでもないのに・・・・・?
ボクは、雅くんのことが好きなんだよ?好きだから、キスしたんじゃないか。
雅くんの目からは、涙が浮かんでいた。ス――っと頬に流れ落ちる。
「雅くん、ボクは・・・。」
「分かってる。・・・・・・・彼女と別れたから、オレに・・・。オレだったら、ちょっとキスでもしてやれば、着いてくるとでも思ったんじゃないのか?」
雅くんは、そんな目でボクのこと見てたんだ?
今のボクは、そんな風にしか見えないんだね。
10年ぶりに再会した大切な人に、そう思われるのは、辛い・・・・。
「違うんだよ、雅くん。ボクの話を聞いて欲しい。」
「いきなりキスをしてきた奴の、何の話を聞けって言うんだよっ!!」
雅くんの顔が、少し怒っていて赤くなっている。雅くんが好きだって信じて欲しいのに。
「ボクは・・・。」
「聞きたくない!!もういい。分かってる。分かってるから。」
「分かっていない!!」
雅くんと友達になってから、初めて雅くんに怒鳴った。
雅くんの瞳からは、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。
ボクが泣かした。
ボクが・・・・。
怒鳴るつもりじゃ・・・、雅くんを恐がらせた。
胸にチクンと針が、突き刺さったみたいだった。
「た・・・ける・・・が、怒って・・・る。ゴメン。ゴメン。ゴメ・・・ン。」
怒ってると誤解されたくなくて、ボクは雅くんの頬に手を伸ばしていた。
「イヤだっ・・・。」
触れる前に、雅くんに払いのけられてしまった。
雅くんの顔は、悲しくて苦痛そうだった。そんな顔をさせたのは、ボク・・・。
「あっ・・・・。ゴメンッ!!」
その場から駆け出した雅くんを、ボクは呆然として、見送っていた。
.。・:*:・`☆、。
雅くんが走り去ってから、どのくらい時間が経っただろう。
その間、何も考えられなかった。雅くんが走っていった方向を、ずっと眺めているだけだった。1度も目を逸らさずに。
雅くんに拒否された自分は、いなくなっても良いかも知れない。
けど、誤解だけはされたくない。何としても、誤解だけは解きたい。でも・・・どうやって?
「雅くん・・・・どう言ったら、信じてくれる?」
何も思い浮かばない。
何も。
雅くんに会わなければならないことは、確かなんだ。ボクの話を、逃げないで、遮らないで、聞いて欲しい。そのためには・・・・・?
「とりあえず家に帰って、雅くん家に行ってみるしかないかな・・・。」
このまま、大学の講義に出る元気なんか、残っていない。
もし、祐希と鉢合わせしたら、ボクは祐希を殴ってしまう。めったに人を殴らない自分が、友人でもある祐希を殴ってしまうのは、ボク自身イヤだ。
ゆっくりと、駅に向って歩き出した。
一人暮らしの家のカギを取り出して、誰もいない部屋の中に入っていった。
雅くんは、帰っているだろうか?
もし、帰っていなかったら?由佳子さんにお願いして、待たしてもらうしかない。
話を聞いてもらって、それでも雅くんは、ボクを拒否したら?拒否されないようにするけど、もしされたら・・・諦めるしかない。そばにはいられないから。引っ越しでもするかな。
荷物を置いて、雅くんの家の前に立った。
もし雅くん本人が出たら、どうしようと思いつつも、チャイムのボタンを押した。
バタバタと足音がして、チャイムのところから声が聞こえた。
「どちら様ですか?」
由佳子さんだ。良かった。
「ボクです。猛です。雅くん、いてますか?」
「あっ、猛くん?ちょっと待ってね。すぐにドア開けるから。」
由佳子さんが言ってから、すぐにドアが開いて、招き入れられた。この様子だと、由佳子さんは雅くんから何も聞いてないだと分かる。一人息子の雅くんを大事に育てたから、もし聞いていたら、きっとボクは中に入れさしてくれないから。
「久しぶりねぇ。元気にしてた?最近、全然来ないから寂しかったのよ〜。」
「お久しぶりです。由佳子さんも相変わらず元気そうですね。」
由佳子さんは、ニコッと笑った。その笑い方は、雅くんにそっくりだった。
「あの、今、家に雅くんいてますか?」
「いてるわよ。けど、雅孝ったら熱出しちゃって、部屋で寝込んでるのよ〜。」
「え・・・!?雅くんが?」
雅くんが、風邪・・・?
調子悪そうには、見えなかったけど。
もしかして、ボクが泣かしたせい?泣いたら、熱が出やすいって言うし。
「めったに風邪なんか引かないんだけど。なんか、あったのかしら?・・・あっ!そうだわ!猛くん、雅孝の様子見てやってくれない?私、ちょっと買い物に行かなくちゃならないんだけど・・・。」
えっ・・・・?良いのかな?
心なしか、由佳子さんの声が嬉しそうに聞こえるんだけど。“何も企んでないですよね?”って聞きたいけど、そんなこと聞けないし。
けど、雅くんと2人になれるのに、良いチャンスだよね。
「いいですよ。ボクが雅くんのこと看てるんで、買い物行ってきてください。」
「そう?良かったわ〜。じゃあ、お願いね。」
由佳子さんは、カバンの中に財布を入れて、ボクと反対にドアから出て行ってしまった。開け放たれたままのドアを、カチッと閉めて、靴を脱いで、雅くん家に上がった。
雅くんの部屋は、2階のはず。起きてるかな・・・?寝てたら、聞いてもらわなくても、話して良いよね。
――コン、コン――
「雅くん・・・?猛だけど、入っても良い?」
雅くんの返事がない。やっぱり寝ているのかも知れない。
「寝てるの?・・・・・入るね。」
ドアを開けて、雅くんのベットを見た。
やっぱり、寝てるんだ。
足音を立てずに、ゆっくりとベットへと近づく。雅くんが、ベットの奥で寝ているのを確かめて、ベットの端に雅くんの顔が間近にあるところに、腰を下ろした。
「雅くん・・・。寝ててもいいから、ボクこれだけは言いたいんだ。」
覚悟を決めて、一呼吸置いてから、話し出した。
「あんなことあって、一度は雅くんを恨んだんだ。」
そう・・・確かに、ボクは雅くんを恨んだ。
「けど、あの日から雅くんを忘れられなくて、毎日毎日雅くんが頭から離れなくて・・・。自分の気持ちにやっと気付いた時には、雅くんのそばには祐希がいた。でも、諦められなくて。」
雅くんの髪の毛を、手グシで梳く。滑らかな髪の毛が、気持ち良い。
「今日、祐希はボクが見てるって気付いてて、雅くんにキスをしたんだ。それを見たら、何も考えられなくなって・・・。ボクの今の偽りのない気持ち・・・雅くんが好きなんだ。」
話しながら、ボクは自分の声が震えているのに気がついた。
告白が、こんなに緊張するなんて知らなかった。好きな人に、気持ちを伝えるのが、こんなに難しいものだと知らなかった。ボクは、初めて本当に人を好きになって、初めて告白したんだ。
ベットの中の雅くんが、少し動いて、それから上半身を起こして、ボクの方を少し潤んだ目で見た。
起きてたんだ。ちょっと恥ずかしい。でも、聞いていてくれて、思いが通じたんだと思う。そうじゃなかったら、雅くんは起き上がって、ボクの方を見たりしないから。
「猛・・・。オレも猛が好きだ。ずっと好きだったんだ。」
ずっと聞きたかった言葉。あの日から、ボクは雅くんが好きだったんだ。
ボクは、雅くんをキツク抱きしめて、雅くんの目に浮かんでいる涙を、唇で吸い取った。
そのまま、雅くんの唇と重ね合わした。
今までの過去を振り返りながら、長い長い口づけをした。
もう二度と離れないと、お互いに誓い合いながら・・・。
☆えんど☆
3000HITのエリカさまからのリクエストです。
『「幼なじみ」の猛くん視点サイドストーリー』でした。
セリフとかは一緒なので、一気に書いてしまいました…。
猛ってこんなキャラ?って自分でも不思議に思いながら、出来たです(笑)
読んで頂いて、ありがとうございますvv