10万HIT記念小説
は な ゆ め い だ く お も い つ た え て
花夢抱く想い伝えて
2
柚兎は茫然としたまま家に帰り着くと、中学の卒業アルバムを広げた。隆道がいたクラスの個人写真を見ると、確かにでっぷりと太っている隆道の顔が写真いっぱいに映っている。
「本当に同じ人物……?」
柚兎は首をかしげながら、さっき見た隆道の笑顔を思い出していた。
ものすごく可愛かったよなぁ…。
頬染めたりしたら、もっと可愛いんだろうなぁ…。
けど…、男だよな…。
けど、可愛い。
柚兎は自分がすでに隆道の笑顔に一目惚れしちゃっていることに、気付いていなかった。
卒業アルバムを広げたままボーッとしていた柚兎は、自分の部屋の窓から幼なじみが侵入してくるのに気付かなかった。
「おーい、柚兎?何してんだよ。」
「また窓から侵入してきたのか、孝治【こうじ】。」
「いーじゃねぇか。玄関からなんて面倒臭くてよー。それより何見てたんだ?」
柚兎の幼なじみで親友でもある木下孝治【きのしたこうじ】こそ、隆道が振られてしまった相手だ。
「中学の卒アル…。」
「ふ〜ん。」
孝治はすぐ側によってきて、卒業アルバムを覗き込んだ。
「あ、こいつ。」
孝治が指を示した場所は隆道の映っている写真だった。
「え?なっ、ななな…なんだ?」
柚兎は自分が隆道のことを見ていたのばバレたと思って、ものすごく焦った挙句、どもりすぎた。
孝治は柚兎がどもったことをあまり気にした様子もなく、衝撃的なことを口に出した。
「こいつ、この三波って奴。バレンタインの時に、俺に告って来た奴だぜ。」
「えっ!?」
「ものっすごいデブのくせに頬染めやがって、速攻で断ってやった。」
「はっ!?」
なんて勿体無いことを!!
と大声で叫びそうになったが、何とか喉で止めた。
驚いたり焦ったりしている柚兎の顔を気にも止めず、孝治はすぐに話題を変えてペラペラと話し出した。
柚兎は隆道のことで頭がいっぱいで、右耳から左耳にすべて流れてしまっていたが。
一通り話し終わってスッキリしたのか、孝治はまた窓から出て行った。それでもまだ柚兎はさっきの孝治の言葉が頭の中で回っていた。
『俺に告って来た奴。』
そうかぁ…。
三波は孝治のことが好きだったのか。
俺と孝治が親友だってことも知ってたんだろうな。
だから口止めを…。
はぁ。
実は物凄く残念で、ちょっぴり胸がチクチクするにも関わらず、未だに隆道に惚れていることに気付かない柚兎だった。
#
初日にお願いしてから、本当にバラさないでいてくれる柚兎に、隆道は少しずつ信頼を寄せていった。
「佐々木くん。ここ…教えて欲しいんだけど。」
「どこ…?」
「ん〜っとね、ここ。問2のところ。」
「あ〜、それは。」
少しでも地元から遠い所、挙句にレベルが高い所、そうゆうところを目指して一生懸命勉強して入った隆道にとって、少しばかり授業について行くのは困難だった。
5月早々にあった学力テストで張り出された紙に、柚兎の名前が5位以内に入っているのを見て、隆道は天からの助けだと感激してしまった。
それ以来、分からないことがある度に柚兎に聞きに行っていた。
クラスが一緒の二人が行動を共にするのに1ヶ月もかからなかった。
佐々木君はみんなと違う。
中学のときみたいにイジワルされないし、今みたいに変におだてることもしない。
普通に友達として扱われているのに、それが嬉しい。
嬉しくて…話すたびにドキドキするんだ。
佐々木君のこと、好きかも知れない。
でも…また木下くんのときみたいに振られるのが嫌だから、友達のままでいい。
「あの……入学式で見たときから、好きだったんです!」
「あぁ……ごめん。」
これで何人目だ…?
この学校…男子高だよな?
………やばっ。
三波みたいな奴だったら分かる気もするけどなぁ。
って俺は一体なにを考えてるだっ!?
放課後呼び出されていた柚兎はそんなことを考えながら、鞄を置きっぱなしにしてきた教室に戻った。
「あ、佐々木くん、お帰り。」
「三波…待ってたのか?」
「うん。一緒に帰ろ?」
少し照れているのか隆道の頬はピンクに染まっていて、それを見た柚兎の心臓はバックンバックンと上下に激しく揺れた。
もしかして…俺、三波のことが好きなのか?