10万HIT記念小説

 

 

 

は な ゆ め い だ  く お  も い つ た え て

花夢抱く想い伝えて

 

 

 

 

中学卒業式前の2月14日、三波隆道【みなみたかみち】はあっけなく同級生に振られた。

理由は簡単なものだった。

「俺、デブは嫌いだから。」

 

そんな三波隆道。

身長165cm

体重92kg

明らかに肥満体質である。

 

それから隆道は一度も学校に来ることはなかった。

卒業式も休んだのである。

 

 

高校入学式の4月8日、三波隆道は男子高のアイドルに早変わりをしていた。初日から大勢の男どもに囲まれていた。

「俺と付き合ってくれ!」

 

身長165cm

体重45kg

47kg減のマイ●ロダイエットである。

 

 

隆道と同じ中学だったのは、この高校に1人しかいない。隆道を振った男の友人で、その名を佐々木柚兎【ささきゆう】という。昔の自分を知らない高校で新しい人生を迎えようとした隆道にとっては、大きな大きな誤算だった。

 

そんな佐々木柚兎。

身長186cm

体重59kg

切れ長な瞳にノンフレームの眼鏡が良く似合う男前である。

ある意味、この男も男子高のアイドルとなる。

 

 

せっかく遠くの高校に一人暮しをしてまで来たって言うのに…全く意味がないよ。よりによって佐々木くんだなんて…。

隆道は小さく文句を言いながら入学式の定番である校長らしき人の話を聞き流していた。隆道は清清しい気持ちで校門を跨いだはずなのに、その後すぐに柚兎に出会ってしまったのだ。

しかもクラス発表の掲示板を見て、お決まりのように柚兎と同じクラスになってしまった隆道は初日から顔色が悪くなっていた。

 

中学の頃と比べて全然違う環境に嬉しくなりながらも、斜め前に座っている柚兎を警戒していた。けれども柚兎は隆道も合わせたクラスのみんなが自己紹介をしても全く隆道に気がついていないようだった。

「今日はこれで終わりだ。明日は身体測定と健康診断、部活勧誘とかで授業はないが、休むなよ!」

担任はさっさと生徒たちを置いて教室を出て行った。一斉に教室が騒がしくなる。隆道はさっきみたいに囲まれるのが怖くて、その前に教室から抜け出した。

あっ…、佐々木くんだ………。

廊下に出たところで柚兎を見つけて、隆道は何かを決心したかのように声をかけた。

「……さっ…、佐々木くん。」

「………何?」

頭ひとつぶんぐらい離れている柚兎に冷たい目で見下ろされて、隆道はビクビクとしながらもちょっと話がしたいと屋上に連れて行った。

 

「あの…ね…、中学のときの僕のこと……ばらさないでくれる?」

柚兎は意味が分からないといった風に、ちょっと首をかしげた。

こいつとどこかで会ったことがあったのか?うーん。名前…何て言ってたっけな…。確か……み…、み…、み……?

うーん…と唸っている柚兎を見て、隆道は一つの不安にとらわれた。

 

「もしかして…、僕のこと、分からなかったり…する?」

柚兎は大きく頷いた。

「お前、なんて名前?」

「あ、僕は…三波隆道。同じ中学だったんだけど……。木下【きのした】くんから聞いてなかったんだ……。」

名前を言った後、小さく呟いた声には柚兎は気付かなかった。

 

「………え?あれ?確か三波って……。」

めったに表情の変わらない切れ長な瞳を大きく広げて、柚兎は隆道をまじまじと見てしまった。

確か三波は……話したことなかったけど、ものすごく太ってなかったか?

隆道は柚兎の思っていることを悟って答えた。

「そう。中学のときすごく太っていた三波だよ。でね、その中学のとき太っていたってことを、みんなにばらさないで貰いたいんだけど…。中学のときみたいな惨めな人生から、やっと抜け出せたんだ…。だから……、お願い!」

隆道は目の前で両手を合わせて頼み込んだ。

「あ…、ああ…。別に言うつもりはないけど…。」

「本当に?ありがとう。」

これで幸せな高校生活を送ることができる!

もう苛められることもないんだ。

 

嬉しくなって満面の笑みでお礼を言うと、隆道はスキップしてしまいそうな気持ちを抑えながら駆け足で屋上の階段を下りていった。

残された柚兎は隆道の笑顔を見て、固まっていた。

 

かっ……可愛い……………。

 

 

 

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