宣戦布告! **恋の病**

 

 

 

 

 

ただのクラスメートに告白された。

大阪弁で、ちょこまか動き、傍観してるだけで、うるさい奴だった。

告白をされるなんて思っていなかった俺は、時が止まったかのように動けなかった。

そのときのあいつの顔は、いつも見てる顔とは違ったから。

 

真っ赤になって、『好きや。』と言ってきたあいつが何だか可愛く思えた。

不覚だ…と思った。

そして俺はあいつに選択を迫られた。

あいつ―――今井 岬(いまい みさき)という男に。

 

 

「相模(さがみ)、頼むから数学の宿題見せてくれへん?」

「嫌だ。」

 

数学の授業が始まる直前、今井は慌てて俺のところへ来てそう言った。

速攻で返された答えに、今井はすねるようにホッペを膨らましている。

そんな今井は、俺のことを好きだと言う。

俺も…そんな今井のことを、嫌いではないと思う。

告白も断りはしなかった。

けれど、俺は今井にキスしたいと思わない。

 

「相模のアホー!数学苦手な俺を少しくらい助けたってもええやんかー。」

「苦手?前の中間テスト何点だったんだ?」

「…………25点。」

「救いようないな。」

 

あまりの点数の悪さに、見せるは愚か、教えようという気まで起きない。

教室の端の席に座っている俺は、今井を無視して読みかけだった小説を再び読み始めた。

少しの間、俺に向って文句を言っていた今井だったが、何かひらめいたのかニヤリと企んだ笑みを浮かべて、俺に1つの『賭け』を持ち出してきた。

その『賭け』とは………。

 

「なぁ、相模!そんなに俺に数学が教えんのが嫌やねんやったら、賭けしよーや!もし、俺が次の期末テストで80点以上取ったら相模が俺にホッペにチュー!90点以上だったら唇にチュー!で、100点だったら愛の囁き+唇にチュー!でどうだ??」

 

思わず顔を上げて、今井の表情を伺った。

 

「お前、本気でそれ言ってるのか?」

 

俺は少し眉を寄せて、睨むように今井を見た。

見上げた今井の表情は軽い口調だったにも関わらず、意外にも真剣な顔つきだった。

俺はそんな今井を見た瞬間、今までと違ったものを自分自身の中で感じ取った。

それが何なのかまでは、分からなかったが…。

 

「あったりまえやん。俺、相模とキスしたいねんもん。付き合い始めてから、まだ一度もキスしてくれへんやんか。」

 

今の時間が放課後で本当に良かったと思った。

何の躊躇もなく、今井は俺と付き合ってると言ったからだ。

男子校でもあるここでは、今井は可愛いと人気がある。

そんな今井と付き合ってるなんて広まったら、大多数の奴らに恨まれる。

 

「分かった。まあ、今井が80点以上取れたらの話だけどな。」

 

開いていた小説を両手でバタンと閉じて、帰る用意を始める。

今井は顔を真っ赤にして喜びながら、『よっしゃ〜!やったるでぇ!』と言って、教室から出て行ってしまった。

きっと数学が出来る奴のところへにでも行ったのだろう。

 

『わざわざ今井が委員会で待っててくれって言うから待ってたのに…。』と俺は一人教室で呟いた。

今井が前のテスト25点からして、80点以上取るなんてありえない。

俺はどっか期待しているような安心しているような…そんな気持ちで教室を後にした。

 

 

今井とのそんな約束の後、3週間もの時が過ぎて、運命の期末テスト、数学の日がやってきた。

朝早くから教室に来て、みんな必死に教科書やノートを漁っている。

俺は自分の席に座り、先に来ていた今井に目を向けた。

机にへばりついて、慣れない勉強をしている今井を見ているのはおもしろかった。

くるくると表情が変わる。

答えが分からないのか膨れっ面をしたり、答えが分かったのか嬉しそうに笑ったり、今井の表情を見るのに飽きる事はなかった。

 

「テストを始めるから、みんな席につけよぉ。」

 

先生入ってきて、教室が慌しくなる。

さっきまで『分からなねぇ〜』と騒いでいた声は消え、先生の説明の声だけが教室内に響き渡っていた。

テスト容姿が配られ、先生の『始め!』という声と共に、みんな一斉に書き始めた。

 

 

―――――50分後。

 

「はい。そこまで〜。さっさと後ろから集めて前に回してこい。」

 

俺たちの解答用紙を回収した先生は、すぐさま教室を出て職員室へと向った。

不意に座っていた俺の前に影が落ちる。

顔を上げると、そこには嬉しそうな今井が立っていた。

 

「俺、今回絶対に80点以上いったからな!『賭け』は俺の勝ちやで!」

「まだテスト返ってきてないだろ。勝ったという言葉はテストが返ってきてから言え。」

「そんなすました顔してられるのも今の内やからな!1週間後が楽しみやわ。」

「あ〜、はいはい。」

 

そのとき教室の中は俺と今井との『賭け』話を盗み聞きして盛り上がっていたとは、全く知らないまま1週間が過ぎていった。

 

 

「テスト返すから、呼ばれた奴から取りに来いよ。」

 

お昼休みも過ぎて、テストが返ってきたのは6時間目だった。

陽射しの良い教室で、うとうと…としていた教室のみんなは、『テスト』という言葉に急に顔が強張った。

この先生はテストを返す時、嫌がらせなのか点数までわざわざ大声で言ってくる。

みんながみんな先生の声に集中していた。

そして、俺も例外ではなかった。

 

「坂下、62点。もう少し勉強しろ。」

「中尾、32点。悪すぎ。」

「相模、97点。学年トップ。」

 

周りから『すげぇ〜。』『うおおぉぉ。』と感嘆の声が上がる。

俺は自分の点数よりも、今井の点数の方が気になっていて、周りの声も入ってこなかった。

 

「今井、………12点。最低点だ。」

「えぇ!?何でなん?あんなにがんばったのに!」

「今井、回答欄、最初の問題以外…全部一つずつズレてるんだよ…。」

 

先生が悲しそうに呟く声が、放心している今井に届いてるかは謎だった。

その後、今井は自分の机に倒れきって、6時間目が終わるまで復活はしなかった。

 

 

「今井、元気だせよぉ――。」

「いい加減、立ち直れよ。」

「そうだそうだ。テストはこれだけじゃないんだからな!」

 

6時間目が終わって放課後になり、みんなが帰るころになっても今井は机に突っ伏していた。

教室を後にするクラスメイトに声をかけられても、今井は全く起き上がろうとしない。

俺と今井だけが教室に残った。

 

「おい。いい加減にしろ。」

 

俺の声に反応して顔を上げた今井は、目を潤ませて捨てられた犬のように俺をながら、ボソボソとしゃべりだした。

 

「う゛…だって……がんばったんや……、俺…しょーもないミスして………相模とチューしたかったのに……やけど……12点って……。」

「そんなに悔しい?」

「…当たり前やろ。俺、絶対80点以上取るつもりでおってんから。」

 

目に浮かんでいる涙を必死で拭いながら、今井は少し強めに言い放った。

思わず俺は今井の頭に手を置いて、なでなでをしていた。

 

「さっ…相模?」

 

今までしたこともない俺の態度に、今井の俺を呼ぶ声が裏返ってる。

俺はそんな今井が、告白されたときよりも何よりも一番可愛いと思った。

手で今井のあごを持ち上げて、顔を上に向かせる。

 

「………………さが…み?」

「がんばった努力は認めてやる。」

「……なに………?」

「ちょっと黙ってろ。」

 

俺は戸惑いの目をした今井に顔を近づけた。

 

 

―――――ちゅっ―――――

 

 


30万HITを迎えた「crystals of snow」さまに献上した作品ですv

意外にこやつら人気があったりするんですねぇ。

ほとぼりが冷めたので、こっちでもUPしてみました♪

 

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