「 星 の 砂 」

 

 

side Nagi

由良の部屋で昔の写真を見ていた。由良に内緒で。

由良がお風呂に入っている間、寝室で暇を持て余していた俺はクローゼットが少し開いていることに気付いて、ついつい中を見てしまった。クローゼットの中は綺麗に整頓されていて、そこにはアルバムがいくつか並んであった。一番右端にあるアルバムを手にとって、ベットに仰向けに寝転んでアルバムをめくり始めた。

数回めくったところで、ある1枚に目が止まった。どこかの公園の砂場の前で、小さい男の子が2人並んで写っている写真。時期的に、幼稚園の頃だろう。

 

何で俺と由良が一緒に写ってんだ?

 

 

俺は隣町に住んでいるけれど、今日は親に連れられて親戚の家に来ていた。けれど他に子供もいないし、親同士が話してる間に勝手に出てきた。家のすぐ近くに公園を発見した。

俺は公園の砂場で一人で遊んでいる奴に声をかけた。

「おい、お前!」

そいつは俺の声に振り向きもせずに、砂山を作るのに夢中になっている。掌は砂だらけだ。

「おいってば!」

「えっ?僕?」

自分が呼ばれていることに気付かなかったらしい。俺はそいつに近寄ると、そいつが作っていた砂山を手伝い始めた。そいつは混乱したような目で俺を見ている。

「お前、何て名前だ?」

「……由…良…。」

「いつも1人で遊んでいるのか?」

由良は俺から目をそらして、俯いてしまった。

「……うん。みんな男なのに女みたいな顔して気持ち悪いって言って、遊んでくれない…。」

俺は由良が気持ち悪いなんて思わなかった。それよりか、めちゃくちゃ綺麗だ。

「俺が一緒に遊んでやる!」

今日だけしか一緒に遊ぶ事が出来ないのに、俺は思わず言ってしまっていた。

「ほんと?ありがとう。」

由良は満面の笑みで、俺に笑いかけた。5歳にしてはマセガキだった俺は、由良のホッペにちゅうをした。きょとんとしている由良に、照れを隠すために砂山を一生懸命作った。

 

 

「凪!?」

お風呂から上がったばかりの由良は、パジャマを着て頬を赤く染めてバスタオルで頭をふきながら俺に近づいてきた。慌てて俺の持っていたアルバムを取り上げる。

「勝手に見ないでよ。」

「小さい頃の由良、可愛い。」

火照って赤くなっているとは違う赤みが由良の顔に表れる。

「恥ずかしいの!もうっ。」

「可愛い。」

由良を抱きよせて深いキスをする。

「んっ……ふぅん……。」

「なぁ……何で小さいころの俺と由良が一緒に写ってんだ?」

艶っぽい色気をかもし出しながらも、由良は答えてくれた。

「僕も最近まで気付かなかったんだけど…。小さいころ、凪は僕と出会ってるんだよ。」

 

 

side Yura

ほっぺにちゅうをされたけど、一緒に遊んでくれて僕はすごく楽しかった。

「ニコニコしてないで手を動かせよ。砂山作るんだろ?」

「うん。でも、もう十分大きいよ?」

「駄目だって。もっと大きくしないと!」

「分かった。僕、水持ってくる。」

やる気の男の子につられて、僕まで頑張って大きいのを作るぞって気になってきた。プラスチックの小さなバケツを持って、水を入れて砂場に戻った。砂を固めるために、水が必要だから。

2人で砂山を作って、トンネルを掘って、遊んでいるうちにお母さんが迎えに来た。

「由良。もうそろそろ帰るわよ。」

「お母さん!」

僕はお母さんの元に駆け寄った。

「あのね!僕ね!お友達出来たの!」

後ろを振り返ってあの男の子を見て、にっこり笑った。

「良かったわね。じゃあ、お母さんカメラ持ってるから、一緒に撮ったあげる。」

お母さんに言われて、僕はまた男の子の所に走っていった。

「お母さんがね。写真撮ってくれるんだって。」

「じゃあ、砂山が見えるように撮ろう!」

僕たちは並んで、お母さんに写真を撮ってもらった。

「ね、また明日も会える?」

僕はその男の子に話し掛けた。けれど男の子は、悲しそうな顔をして僕から目をそらした。

「……俺、ここらへんの家じゃないから、明日から会えない。」

「そう……な、の?」

僕は明日から毎日会えると思ってた。明日から会えないと聞いて。悲しくて悲しくて涙が出てきた。

「泣くな。………これ、やる。」

男の子がポケットから小さなビンを取り出して、僕に渡してくれた。

「これ、何?」

「星型の砂が入ってるんだぞ!珍しいんだからな。大事にしろよ!」

僕はビンをぎゅっと握り締めて、涙を我慢した。

「うん。」

「また会えるから。それまで大事にしろよ。」

「うん。」

「じゃあな。」

「うん。」

涙が出そうになるのを堪えているから、「うん。」しか言えなかった。お母さんに手を引かれて、僕は男の子が見送ってくれている公園を後にした。

 

 

「まだ…持ってるんだよ。星の砂。」

大事な大事な思い出。なくしたりしなかった。

「そうか。星の砂をあげたのは、由良だったんだ。すっかり忘れてた。」

「でも、思い出したでしょ?」

「まぁな。まさか、由良と昔に会ってるなんて思ってなかった。」

「僕も…。」

凪の胸に擦り寄って、甘えてみる。凪は全然嫌がらずに、僕の頭を撫でてくれた。

「凪……好き。」

凪のキスが頭の旋毛(つむじ)の部分に落とされる。

「大好き。」

「俺も、由良が好きだ。」

そう言って凪は、僕を力強く抱きしめた。

 

 

Happy End

 

NOVEL