SWEET SHOOT

 

 

 

 

「由良、こっち向いて。」

カシャッ

「目線はカメラで、ゆっくりと手に持ってるチョコレートにキスしてくれる?」

カシャッ

カシャッ

閑散としたスタジオで、カメラマンの声とカメラのシャッターと切る音だけが聞こえる。

今、モデルになっているのは坂城由良。

モデルネーム『世良』。

中世的な顔が話題になって、絶頂的な人気である。

慣れた感じでポスターとCMの撮影を進めていくものの、慣れているはずの由良の表情が少し硬い。

その理由、知っているのはマネージャーの仲原だけだった。

 

「やっぱり今回は、凪くんが一緒じゃないと駄目か。」

 

 

「由良、昨日の撮影はどうだった?」

ボクが教室に入って席に座るなり、先に学校に来ていた凪がボクのところまで来て、他のみんなに聞こえないように小さな声で言った。

そう…ボクは学校でモデルをやっていることは内緒にしている。

凪以外には。

モデルをするときと凪に会うとき以外は、いつも七三分けカツラとビン底眼鏡を愛用している。

ボクの顔は…人を傷つけてしまうから、隠すんだ。

凪がボクの髪の毛や瞳や唇や…すべてが好きって言ってくれるから、ボクは凪さえいれば満足なんだ。

 

「ん……っ。撮り直しだって。」

そう、昨日のチョコレートのポスターの撮影は明後日に取り直しになった。

その理由はわかってんだけど…。

 

「由良が取り直しなんて、珍しいじゃないか?」

ボクの顔を覗き込んでくる凪は、すごく心配そうだった。

けど…凪が昨日バスケの試合があるから、こんなことになるんじゃないか。

昨日の撮影、本当は凪とボクの2人がモデルのはずだったのに。

凪は…バスケ優先だから。

今回の撮影は、どうしても凪としたかったのに。

何だか、そう考えれば考えるほど、ムカついてきた。

 

「凪、話あるから…場所移動しよ。」

1限目の始まるチャイムがなろうとしているにも関わらず、凪の返事も聞かずにボクは席を立って教室を出て行った。

後ろからは凪が同じバスケ部の健太郎に『適当に誤魔化しといてくれ。』と頼んでいる声が聞こえた。

 

1限目の授業が始まった構内は静かで、ボクたちがいる屋上に続く階段にも誰も近づいてくる気配はなかった。

「なぁ由良。話ってなんだ?」

「ねぇ、凪はボクとモデルやるの嫌?初めて巻き込まれてから、ポスターやCMに写っている凪って、不機嫌そうな顔ばっかだもん。」

今までって言っても、凪がモデルをしたのは計6回。

その中で、凪が笑っている顔は一枚もないんだ。

「写真とか…苦手だって前に言ったろ?」

「ボクと一緒なのに?」

凪はポリポリと頭をかきながら、言いにくそうに話した。

「由良と一緒に写るなんて、余計に恥ずかしくて笑えないって。」

 

凪の少し照れた顔から、嘘じゃないって分かった。

ちゃんと凪の思っていることを聞いておいて良かったな、と思う。

そうじゃなかったらボクだけが気にして、凪との関係も崩れ去ってしまってたかも知れない。

 

ボクの『話し』ってのが今のことだと思ったのか、凪はボクを促して教室に戻ろうとした。

本当に言いたいのは、別にあるんだけどな。

「凪待って。もう一つあるんだ。」

階段を下り始めていた凪は、身体を反転させて戻ってきた。

「どうしたんだ?由良…いつにもなく真剣な声で…。でも、そのカツラと眼鏡でじゃあ、あんまり真剣に感じないけどな。」

ボクに近づいて七三分けのカツラと眼鏡を取り上げた。

薄茶色の髪の毛と大きい目が、凪の前に姿を現す。

「他の人にバレたらどうするの。」

「今、授業中だから大丈夫。それよりも、もう一つは何だ?」

 

「やっぱり昨日の撮影、凪も一緒が良い。」

今回の撮影だけは凪と一緒じゃないと、駄目なんだ。

ボクの中で、特別だから。

「取り直しの撮影日は?」

「明後日の13日。」

「久しぶりに由良と撮影だな。」

凪はボクの髪の毛をグシャグシャとかき混ぜて、嬉しそうに笑った。

その笑顔に応えるようにボクも笑ったら、凪が唇をかすめるようなキスをしてくるもんだから、思わず顔が赤くなっちゃって教室になかなか戻れなかったんだ。

 

 

撮影はボクたちの学校が終わる放課後にしてもらった。

裏門のそばに止めてくれていた仲原さんの車に凪と二人で滑り込み、仲原さんのスピード違反全開の運転によって無事にスタジオに着くことが出来た。

「仲原さん…もう少し安全運転してくれないと、いくら酔わない俺でも酔うって。」

凪が胃らへんを抑えながら、仲原さんに訴えている。

「お前たちのために俺がこんなにがんばって運転してるのに、何を言ってるんだ?そんなこと言ってないで、さっさとスタッフルーム行って着替えて来い。」

凪の訴えをもろともしない仲原さんは、僕たち2人を撮影所の前で降ろして車を止めに行ってしまった。

僕は何だか納得いかないって顔の凪を、とりあえずスタッフルームに引っ張って行った。

仲原さん……あんまり凪をいぢめないでやってね…。

 

僕は一度着てるから驚かなかったけど、撮影の衣装に凪はかなり驚いていた。

「これ…衣装って言って良いのか?」

そう…今回の衣装は、僕は白のシーツ、凪は黒のシーツを巻き付けるだけだったのだ。(普通のチョコとホワイトチョコをイメージしたらしい…っていうか、誰がこんなこと考えたんだろう…と思ったけど。)

「ここまで来て嫌とは言わせないからね。上半身脱ぐだけで良いらしいから…はい。」

まだ驚いてる凪の手に黒のシーツを渡して、僕は自分の白のシーツを手にとってさっさと着替え始めた。

 

「でさぁ、一体何の撮影なんだ?」

撮影も目の前ってところで、凪が気の抜けるようなことを聞いてきた。

「え?凪知らなかったの?」

「いやだって…承諾はしたけど、何の撮影か教えてもらってなかったような…。」

「チョコレートだよ。バレンタイン1日だけのCMのために。」

だからこそ、凪と一緒に撮影したかったんじゃないか。

凪ってば、『そうだったのか…。』とか呟いてるし。

ほんと凪って、モデルの自覚がないよね……僕が毎回どれだけ心配してるか。

凪と一緒に仕事できるのは嬉しいけど、それだけ凪がテレビや雑誌に出るってことなんだから。

 

 

「二人でチョコレートの箱を持って、こっち向いて〜。」

先にポスターの写真を撮ってしまってから、その後でCMの撮影だった。

ポスターの写真は、僕がイスに座り、凪が僕の後ろに立って、後ろから抱きつくような形で2人でチョコレートの箱を持つような感じだった。

僕一人の時の撮影とは違って、かなり順調に進んだ。

こんなとき…凪と一緒にいると安心すると思う。

僕はもう…凪がいないと駄目なのかも…。

ちらっと凪の方を見ると僕の視線に気付いたのか、凪は僕を見て微笑んでくれた。

 

「よし。ポスターの方はOKだから、次はCMを撮るとしよう。」

CMと言ってもバレンタインデー当日にだけのものだったから、15秒という短い時間だった。

「じゃあ2人とも、イスをのけて白いカーテンを下に引くから、その上に座ってくれる〜?箱からチョコレートを一つだけ出すから、それを…由良が持って。」

 

準備万端の僕と凪は白いカーテンの上を歩き、中央に向かい合うように座った。

「由良は唇でチョコレートをはさんで、凪くんとおでこをくっつけて。2人とも両手とも前に置いて。……曲が流れ出したら、由良のチョコレートを凪くんにキスはしなくていいから、渡して。」

………本番の合図を待つ。

凪の真剣な顔が瞳に映る。

少し照れて凪から目をそらすと、凪はクックッと笑っている。

「由良…可愛い。」

思わず咥えているチョコレートを落としそうになった。

「本当にキスしよっか?…由良見てたら、すごくキスしたくなってきた。」

僕は目を見開いて、少し焦りながら小さく首を振った。

「冗談だって。」

本当か冗談か分かったもんじゃない。

 

部屋の中が静まり返る。

監督さんの声だけが聞こえてきた。

「始め!」

 

曲が流れ始めた。

おでこから伝わってくる凪の体温が心地よい。

おでこを離し凪と目を合わして、唇を寄せた。

凪の唇にチョコレートが渡ったとき、誰にも分からないような、かすめるようなキスをしてきた。

きっとCMで顔がアップで映っていたら、キスしてるのが分かるんじゃないか…って思う。

けれど、その後の凪の笑顔を見たら、何もかもどうでも良くなった。

どんなに世間に騒がれても、僕は凪がいれば良いんだから。

 

「カ―――ット。OK。お疲れ様〜。」

一発OKでみんながザワザワしている中、凪は口に含んだチョコレートを僕に渡してきた。

さっきとは比べ物にならないぐらい、とろけるようなキスで。

「美味しい?」

「もう…みんないるんだから、こんなところでしないでよぉ。」

誰かに見られてるかも知れないと思うと、恥ずかしくて顔が熱くなる。

「へぇ〜。じゃあ2人っきりの時だったら、もっとしても良いんだ?」

「……えっ…。」

「じゃ、早く着替えて帰ろう。最近お互い忙しくて由良と一緒にいられなかったから、その分まで思う存分…な。」

 

 

それから僕たちは仲原さんに送ってもらって、(何故か帰るときもスピード違反してて、凪はくたばってたけど…)僕の部屋へと戻ってきた。

「凪、明日まで一緒にいられる?」

「明日、朝一緒に学校に行こうか。」

凪の言葉から、今日は泊まっていってくれることが分かる。

「チョコレート、明日渡すね。」

「朝起きたら、ベットの上にあるとか?」

「それはクリスマスじゃないか〜。それより、凪。せっかく2人になれたんだから……その…あの…。」

途中まで言ったものの、だんだん恥ずかしくなってきて言い出せなかった僕を抱きしめて、凪は嬉しそうにこう言った。

 

「思う存分…だろ?」

 

☆えんど☆

 

(02/02/13up)

 

ひいぃぃぃぃ――――ゴメンなさい(T△T)

こんなものになるんじゃなかったのよ〜。

ユエにも、どうしてこうなったのか分かんないッス〜。だって、もっともっとラブラブ〜vvになる予定だったのにねぇ…。

まっ、書いてしまったものはしょうがない!!と思うことにした(笑)

『幼なじみ』を張り切って先に書いてしまったせいで、力尽きた…とでも言うのか?凪がしゃべんないから、動かないから悪いんだぁー!!と自分で自分に言い聞かせてみたり…(逃避)

この2人の票を入れてくれた人、どうもありがとうです〜vv

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