小さな恋のものがたり

 

 

夕方の日が少し沈む前。

放課後の学校から家への帰宅途中。

あまり通らない道での出来事。

 

ハァ…ハァ…ハァ……。

 

走っても、走っても、あいつの姿を視界に捕らえることが出来ない。

あとどれぐらい先に、あいつはいるんだろう。

あとどれぐらいで、あいつに追いつけるだろう。

あとどれぐらい、あいつと一緒に帰れるだろう。

あとどれぐらい…。

 

「市夜(いちや)!!待てよっ。」

 

目の奥に写ったあいつを見て、俺はあいつの名前を叫んでいた。

あいつは少し俺の方を振り返っただけで、立ち止まらずにそのまま歩いていく。

今にも詰まりそうな息をもう少し酷使して、俺はあいつのすぐそばまで走った。

 

「市夜!待てってば。」

「待たない。」

 

即答で返ってきた言葉に、俺は少しムッとした。

 

「どうしてそんなに怒ってるんだよ?」

「怒ってない。」

 

俺はあいつに追いついて、あいつの横に並んで一緒に歩き始めた。

横目で見ると、あいつの目には涙が浮かんでいる。

 

「何で泣いてるんだよ?」

「泣いてない。」

 

俺の質問に答えようとしないあいつの腕を、俺は掴んであいつを立ち止まらせた。

一瞬目があったと思ったら、あいつはすぐに俺から目を背けた。

 

「やっぱり泣いているじゃないか。」

 

あいつの目に浮かんでいる涙を、俺は空いている方の手の甲で、すくい上げた。

大人しく片目をつぶって俺の手の甲をはらわないあいつは、俺をドキッとさせる。

こんなときのあいつは、すごく可愛い。

 

 

「……………だったじゃないか。」

「え?」

 

あいつの言っていることがよく聞こえなくて、俺はあいつの口元に耳を近づけた。

あいつの方が俺より15cmほど小さいため、俺は少しかがむような感じになる。

 

「女の子に告白されて、嬉しそうだったじゃないか。」

「は?」

 

今のははっきりと聞こえていたのだったが、俺はあいつの言ってる意味が分かっていなかった。

しばしの間、考え込んでしまう。

そして、少し時間をさかのぼって、学校でのことを思い出した。

 

−そうか。

−市夜との待ち合わせ場所に行く前に、確か知らない女の子に呼び出されて…。

−市夜の奴、俺が告白されたところを見たんだな。

 

「もう、いい。」

 

あいつは俺が何も答えないのに痺れを切らしたのか、俺が掴んでいた腕を振り切って走り出した。

すぐにあいつの後を追っかける。

俺があいつを捕まえるまでが、すごくスローモーションに感じられた。

そしてもう一度、あいつの腕をつかんだ時、俺はあいつを胸の中に抱きしめた。

 

「……市夜。」

「離せよ。」

 

「嫉妬した?」

「苦しい。」

 

「好きだよ。」

「………。」

 

「市夜が好きだよ。」

「……分かってる。けど…。」

 

少し頬を赤らめるあいつは、可愛くてしょうがない。

俺はあいつを抱く腕に、力を入れた。

 

「俺は男とか女とか関係なく、市夜が好きだから。…信じて?」

「…うん。」

 

あいつの腕が俺の背中に廻ったのが分かる。

あいつの温もりが心地いい。

 

「市夜は…俺のこと、好き?」

「…うん。」

 

「ちゃんと言って?」

「…好き…だよ。」

 

ますます顔を赤らめるあいつは、耳まで真っ赤になっている。

そんな真っ赤な耳を冷やすように、俺は少し日が沈んで冷たくなった唇でそっとあいつの耳たぶにキスをした。

 


すごくSSなんですけど、結構気に入ってますv

でも、実は数十分で書きました(笑)

実はモンゴル800(略してモンパチ〜♪)の『小さな恋のうた』を聞いてたら、出来あがったものなんですよvv

高校生の放課後のワンシーンですね。

こうゆうなんを書くと、ちょっと高校生気分に戻ります(無理)

 

(2002/04/08)

 

 

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