105000hitリク おぐろサマthanks

 

 

Honey  One  Time

 

 

「こんにちわー。」

チャイムを鳴らさずに、千鶴【ちづる】は手馴れた様子で自分ちの隣りにある家に入っていった。

靴を脱いでいると、二階の階段からこの家の長女である大学生の美咲【みさき】がお出かけ用スタイルをして降りてきた。

「ちぃちゃん、おはよう。って、もうお昼か。廉【れん】ならまだ上で寝てるわよ。」

「ありがとう。美咲ちゃんは今からお出かけ?」

「うふふ…。デートなの。ちぃちゃんも今日は廉とデート?」

「んー。その予定なんだけどー。」

廉、まだ寝てるし…。と呟く千鶴のふわふわした髪の毛をポンポンと撫でて、美咲は靴を履いて玄関のドアを開けた。

「頑張って廉を起こしてね。」

ウインクを一つ千鶴に残して、美咲はドアの向こうに姿を消した。

 

千鶴は美咲を見送った後、すぐに廉の部屋に向かった。

家の中は静まりかえっている。

廉の両親は休日の今日も仕事なんだろうなぁ。

そんなことを考えながら千鶴はノックをせずにドアを開けた。

廉の部屋の中は、中学3年生にしては片付いている。

ベッドの上には静かに寝息を立てながら、気持ち良さそうに寝ている廉がいた。

「廉。」

一応声をかけてみるが、寝起きの悪い廉は全く反応しない。

ベッドのすぐ側まで行き、千鶴は廉の顔を覗き込んだ。

自分の童顔とは違って、中3にしては大人っぽい男前な顔つきの廉に少しばかり見惚れた。

廉は僕の顔を好きだと言ってくれるけど、やっぱり僕は廉みたいな人に憧れちゃうな…。

「廉ってば。」

耳のすぐ側で声をかけると、「んーっ…。」と一つ反応を示したものの、起きはしなかった。

「もー。本当に寝起き悪いんだから。…あ、そーだ。」

千鶴は悪戯っ子のようにクスクス笑いながら、廉の鼻を指で摘んで、口を唇で塞いだ。

 

1、2、3、4、5、6、7………

 

「ぶはぁっっっ!はぁ、はぁ、はぁ………。」

廉は勢いよく布団と共に上半身を起こした。

「やっと起きた。」

どうやって起こされたのか、いまいち分かっていない廉は呆然としている。

「おはよう、廉。」

千鶴はそんな廉の唇に自分の唇を当てて、ちゅっと音を立てて離した。

千鶴にキスをされてやっと目が覚めた廉は、ふわぁ…と欠伸をして側にいた千鶴を抱きしめ、またベッドへと倒れこんだ。

「おやすみ、ちぃ。」

「も〜。まだ寝るの?今日は僕と出かけるって約束したじゃない。」

「でもまだ眠い…。」

中3の廉は、千鶴と同じ高校に行くために毎日夜中まで勉強をしている。

千鶴の通っている高校は、地元で一番頭がいいところだった。

部活でもあるバスケ一筋でやってきていた廉にとって、勉強は苦痛でしかなかったが、千鶴と一緒にラブラブ登校がどうしてもしたいらしい。

 

「もうお昼だよ?僕の家にご飯あるから、早く食べに行こ?」

ねっ、と千鶴はにっこりと微笑んだ。

ご飯と言う言葉に、タイミングよく廉のおなかが鳴った。

「食べる。」

 

千鶴の家でもある永瀬【ながせ】家と、その隣りの廉の家でもある笠松【かさまつ】家は、昔からの深い繋がりがある。

ただ単に、嫁二人が従姉妹同士だと言うだけなのだが。

ついでに言うと、旦那二人も親友同士ということもあって、千鶴と廉は生まれたときから一緒だった。

千鶴が3月の28日に生まれ、廉が4月の3日に生まれた。

小さい頃から一緒だった2人には、学年という差が待ち受けていたのだった。

 

廉と手を繋いで、千鶴はすぐ隣りの自分の家へと入っていった。

「廉ちゃん、おはよう。」

「おばさん、おはよ。」

廉は欠伸をしながら自分の家であるかのように靴を脱いで入った。

「もうっ。由佳ママって言ってって、いつも言ってるでしょ〜。」

みかけ30歳に見える千鶴の母、由佳は40歳である。

「あーはいはい。それより、俺の朝ご飯…。」

「もう、食いしん坊なだから!テーブルの上に置いてあるわよ。もう昼ご飯の時間だけど。ちぃちゃんのお昼ご飯も一緒に置いてあるから、食べておいで。」

ぷりぷりと頬を膨らませて怒っている姿は、とても40歳には見えない。

「ありがとー。あ、廉…待って。」

千鶴は先にキッチンに向かった廉を追いかけた。

後に残った由佳はクスクスと笑いながら、誰にも聞こえないように呟いた。

「早く廉ちゃんが婿に来てくれないかしら。」

 

「ちぃ、今日はどこに行きたいんだ?」

朝ご飯、または昼ご飯を食べてようやく頭がはっきりしてきた廉は、自分の家へと戻って出かける準備をしていた。

その傍らで千鶴は用意が終わるのを待っていた。

「ん〜とね、ほら、この間できたばっかりの……。」

「あぁ、セントラル何とか…って名前のところか?」

「そう!そこ。そこに行こ?」

千鶴は廉の腰に抱きついて、少し甘えるように下から廉を見上げた。

「今日は俺が寝坊したから…ちぃの好きな所へ付き合うよ。」

甘えてくるしぐさにつられて、廉はぷるんと潤った千鶴の唇を掠め取った。

「んっ、廉ってば…。」

不意打ちな行為に真っ赤になってしまった顔を隠すために、千鶴は目の前にある廉の胸へと顔を埋めた。

 

 

 

「もう…、当分はいいかも……。」

「新しく出来てすぐのところに行くもんじゃないな。」

行くまでは良かったのだが、休みの日ということもあってすごい人だかりだった。

あまりの人の多さに、二人とも人酔いしてしまった。

千鶴は自分で行きたいといっておきながらも、帰るころには後悔にかわっていた。

もぅ…。せっかく今日は特別な日なのに…。

それにしても、人多すぎだよぉ…。

うー、頭がグラグラする…。

 

早々に家に帰ることに決めた2人は、廉の家に向かっていた。

千鶴は隣りを歩いている廉の顔をチラッと盗み見した。

すぐに視線に気がついて、千鶴と目が会うと小さく微笑んでくれた。

廉ってば…カッコよすぎ…。

嬉しくなって周りに誰もいないのを確認してから、そっと手を繋いだ。

繋いだところからジワジワと熱が伝わってきて、千鶴の心は廉の温かい熱でいっぱいになった。

「ねぇ廉、……。」

「どうした?」

千鶴の顔を覗き込むようにしてみると、目が潤んで目じりは赤く染まっていた。

「………廉、大好き。」

廉は繋いだ手をぎゅっと握り返した。

「……知ってる。帰るぞ。」

「うん。」

 

「廉、これあげる。」

廉の家に戻った後、千鶴は今日ずっと鞄の中に持ち歩いていた小さな箱を廉に差し出した。

箱の蓋を開けると、スウォッチのシルバー腕時計だった。

前々から廉が欲しいと言っていた物だった。

「ちぃ、これ…。」

「後少しで受験でしょ?それだったら、高校生になっても使えるし。」

本当は今日が付き合い始めて一年目だからってのもあるんだけど…廉が覚えてるわけないしね。

「……ありがとう。大事にする。」

「どういたしまして。絶対に僕の高校に合格してね。」

ぎゅっと千鶴を抱きしめて、廉は何度も軽く口づけた。

啄んで、深く、奥まで舌を絡めとる。

「んっ……ふ……んあぁ…。」

「ちぃ…好きだ。」

「んっ……僕、も…、んふぅ…。」

2人の唇が離れたとき、千鶴の息は乱れていた。

廉はポケットから何かを取り出して、千鶴の腕に付けた。

「これ、やる。」

「れ…ん……?」

「今日で一年経っただろ?一応一年目だから、用意した。」

「どうして……。」

「ちぃが腕時計くれたのも、一年目だからだろう?」

「覚えてて…くれたん…だ?」

「忘れるわけない。ずっとちぃのことが好きだったんだから。ちぃが告白してくれて、どんなに嬉しかったか。」

「れん……。大事にするから。」

千鶴は自分から廉にキスをして、舌を絡めた。

静かな部屋で舌が絡まる音だけが、お互いの耳に聞こえていた。

 

音を立てて唇が離れた時、家の電話がけたたましく鳴った。

廉の部屋にある子機から電話に出ると、千鶴の母、由佳からだった。

「もしもし〜?廉ちゃん?ちぃちゃんと一緒にいる〜?」

「居てる。」

「さっき幸(さち)ちゃんから連絡があって、秀秋(ひであき)さんとデートしてくるから廉ちゃんヨロシクって言われたのよ〜。夕食食べに来るでしょ?もうそろそろ出来上がるわよ。」

幸と秀秋は、廉の母と父である。

「じゃあ、ちぃ連れてそっちに行く。」

「待ってるわねー。」

電話を切った後、お互いの目が合い、クスッと笑いあった。

「じゃあ、ちぃの家に行こうか。」

「うん。」

 

千鶴の腕にはめられたものは、白い肌に良く合う、2重レザーブレスレットだった。

 

 

END

 

おぐろさまからのリクエストでした。

短編ではなかなかリク内容が処理できませんでした(汗)

もっと両親やおねえさんを出したかったんです。

とりえあえす二人がラブラブしてたらよしとしよう!

と言うことで、こんな風に出来上がりました。

おぐろさま、ありがとうございましたv

 

バックプラウザで戻ってください。