Over Drive -人生山あり谷あり-
夕食の豪華食事は、『カニスキ』だった。俺はめったに食べることのできないカニスキをめいいっぱい楽しんだと言ってもいい。隣りでちょっかいかけてくる青龍をことごとく無視して。
真尋は天然の可愛らしさで、他人に問題のプレートを貰い、答えを教えてもらい、のほほーんと50位以内に入ってきた。天然は恐るべし…としか言いようがない。
同室の次郎は何かとどんくさい奴で、プレートを取っても奪われる、答えは間違うで、ほぼビリに終わっていた。しかも探している間にぶつかられて、眼鏡が歪んだらしい。歪んだまま眼鏡をしているから、余計に情けなく見える。
夜はキャンプファイヤーと花火で、俺や真尋は…、どーでもいい男どもに囲まれていた。このときがチャンスとばかりに、俺にベタ惚れらしい舞殊も近寄ってきた。舞殊が来るとなると倫牙や松木平までやって来る。
倫牙が来ると、ねちっこくて嫌なんだよなぁ〜。俺のことがうっとおしいなら、来なけりゃいいのに。そんなに舞殊が好きなら、さっさと告れっつーの。
「真尋、俺、かったるいから抜ける。」
声をかけてくる野郎たちとちゃんとお話している天然真尋に、ボソッと言い残して、俺はその場からさっさと抜け出した。
キャンプファイヤーの明かりが少し届くぐらいのところまで移動すると、先客がいた。青龍だ。俺が見たことのない顔で、青龍は岩に腰掛けて空をジッと見ている。何だか入っていけない雰囲気で、俺はその場を離れようとした。
バキッ。
と、思ったら…見事に木の枝を踏んで、見付かった。俺も次郎と同じようにちょっとマヌケかも…。いや、あいつよりマシだけどさ。
「あら、都姫ちゃん。」
「よ…よう。」
「そこに立ってないで、こっちに来なさいよ〜。」
青龍はもう、元のいつもの顔に戻っていた。一体、なんだったんだろう?別にいいんだけど。
いままでの経験からしてあんまり近寄らないようにしながら、青龍の向かいの岩に座った。胡散臭い目つきの俺を見て、青龍は苦笑いをした。
「信用ないのね〜、私。」
「当たり前だろ。いつもいつも抱きついてきたりするわ、キスしようとしたりするわ!俺のファーストキスを返しやがれ!」
「あらv都姫ちゃん、あれがファーストキスだったの?ごめんなさいねぇ。舌入れちゃったわv」
青龍はごめんと言いながらも、めちゃくちゃ嬉しそうだ。くっそ〜、全然悪いと思ってないじゃないかっ。つーか、やっぱり、あの『むにゅう』っとしたものは、舌だったのかっ!?ううぅ゛……ファーストキスが、ディープキスだなんて……ひどすぎる。
「お前、本当に最悪だな。」
俺がムカついて毒を吐くと、青龍の顔がさっきの見たことのないような顔になった。
「………さい、あく……か。その通りかも知れない。」
えっ?えっ?青龍が何かおかしい。いつものおねぇ言葉じゃない!いつもだったら「ひどいわねぇ〜。」とか言うのに。俺、まずいこと言ったのか?
青龍は悲しそうな顔をして、また空を見上げた。
「悪い…。俺……。」
「本当のことだから。」
謝ろうとしたら、青龍はそれを遮った。確実にいつもと違う。
「本当のこと?」
「最悪だから……。」
一体何が青龍にあったんだろう。俺は何も青龍のことを知らないんだ。別に知ろうとも思わなかったけど…。
「あっ、あのさ。最悪って言ったけど、言葉のあやだから!別にお前が悪いわけじゃないし…確かにちょっと変だし、…ちょっと?かなり変だし、おねぇ言葉だし、いつもふざけてくるし………あ、あれ?」
フォロー入れたつもりが、いつの間にか貶(けな)してるような…。あ゛ぁ〜俺は何をやってんだよ。
「はははっ。あははははははっ。」
「大爆笑するなっ!!」
「だって、くくくっ…、都姫ちゃん、自分で言ってること矛盾してるんだもの。」
あ、いつものおねぇ言葉に戻ってる。おねぇ言葉がこんなにも安心するなんて思わなかったぞ?俺ってこいつに順応されてるよなぁ。
それにしても初めて馬鹿笑いした青龍を見た。俺は今まで作り物の笑顔しか見てなかったような気がする。こいつ…俺のことが好きだって言ってるくせに…。もうちょっと自分を出せよな。ってゆーか、普通に見たら、男前だったのか。あまりにもふざけてばっかりだったから、全く気付かなかった。
「都姫ちゃん、お願いがあるんだけど…いいかしら?」
「それは…『何でも券』でか?違うのか?」
「違うわよ〜。私個人的なお願いv」
もうすっかり元の青龍に戻っていやがる。相変わらず訳の分からん奴だ。しかもお願いってそんな可愛く首をかしげて頼むなよ。
「内容にもよる。」
「やーね。そんな大層なものじゃないわよ。あのね、私のこと青龍とかオカマとかじゃなくて、帝都って呼んで欲しいんだけど、駄目かしら?」
青龍はあの…作らない笑顔でお願いしてきた。絶対に計画的にその笑顔を出してるような気がしてしょうがない。
「………しょーがねぇなぁ。」
「嬉しいわー。ねぇ、さっそく呼んでみてくれない?」
「はぁ?別に用もないのに呼ぶのかよ。」
「お願いv」
本当に、しょーがねぇ奴。
「帝都。」
「なぁに?」
「お前が呼べって言ったんだろーが!」
「あはは、そうね。ありがと、都姫ちゃん。」
油断していた。すばやく帝都(あいつが呼べって言ったから、しょーがない!)の顔が近づいてきて、ちゅっと音を立てて、また離れていった。
今…唇にあったかいものが触れたような…?
「都姫ちゃんの唇は柔らかくって、ついしたくなるのよねー。」
ついなのか?俺の唇はついしたくなるようなものなのか?
「あれ?都姫ちゃん?都姫ちゃーん?……あら、固まっちゃってるわ。じゃあ、お言葉に甘えて…。」
俺が固まってるのを良いことに、帝都はぎゅう――――っと俺を抱きしめてきた。夜の少し冷える風に、帝都のぬくもりはちょっと気持ち良かった。このまま、流されそうになったぐらいだ。思わず帝都の方に寄りかかると、帝都は俺の耳に息を吹きかけやがったんだ。
「うわあああぁぁ。」
バリッと音がするんじゃないかというぐらいの勢いで、俺は帝都を引き剥がした。息を吹きかけられた方の耳を手で抑えて、自分の動揺した息を整える。
「あら?あら?あら?…もしかして、都姫ちゃん、耳弱かったりするのかしら?」
すごい楽しそうに帝都は話し掛けてくる。あぁ、腹が立つ。何か仕返ししないと気がすまない。
「覚悟しやがれ!」
名付けて、『必殺くすぐりの刑』!!!そのまんまだけど。帝都に効くかどうかは分からないけど、とりあえず脇腹を攻めてみた。
「うひょうひゃうあっ。」
「な、何だ…今の気持ち悪い奇声は…?」
「や、やめてぇ…。脇腹だけは駄目なのよ。」
意味不明な奇声はともかくとして、効果は抜群!今度から、この手でいこう!
「ふふふふふ、帝都の弱点見つけたり。」
「と、都姫ちゃん?」
「これから楽しみだな。」
微妙に帝都の顔が引きつっている。いつもと立場が逆転したようで、気分が爽快だ。けれど帝都は懲りずに抱きついてきやがった。
「都姫ちゃん…その企んだ顔が小悪魔みたいよ?でも、そんな顔もそそるわーv」
「いい加減にしろ―――!!!」
結果、もう一度くすぐりの刑を実行してやった。
「うひゃうひゃうあぁぁ………。うふふ…いいの、耐えるわ、私。」
こいつ…マゾ?
おわり。もどる。
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都姫ちゃん、帝都さんに流されているように見えますv
しかも名前で呼ぶようになっちゃったしねー。
帝都さんの過去らしき部分が見え隠れしましたけど、
まだネタばらしはいたしません♪(オイ)
一応、Over Driveは「完」でございます。
次の題名は……なんだったかのぅ…??