care
「潤一郎、起きて。起きないと学校遅刻するよ?」
ほぼ最近、毎日繰り返される言葉。
充弘と潤一郎がお互いの思いを知った日から1ヶ月、充弘はたまに潤一郎の部屋で朝を迎えていた。
しかも同じ部屋でなくとも一つ屋根の下、それに加えて親公認とくれば、充弘も潤一郎も男であっても誰も文句を言う事はない。
「ん―――。………みっちゃんがちゅうしてくれたら起きる…。」
ちゃんと起きてるのか半分寝ぼけてるのか分からない潤一郎は、同じベットで上半身起き上がっている充弘の腕を掴んで自分の元に引き寄せた。
半分呆れ顔の充弘だったが、『しょうがないなぁ…』と言った感じで微笑んで、潤一郎のおでこにキスをした。
そんな充弘の笑顔を薄らと目を開けて見ていた潤一郎は、朝から良い笑顔を見たと自分も微笑んでいた。
充弘に戻った表情。
それは何とも素晴らしいものだった。
ずっと戻って欲しいと思っていた充弘の笑顔は、潤一郎が想像していたものよりも綺麗だったのだ。
潤一郎や潤一郎の両親の前だけで微笑んでくれる充弘の笑顔は、たまに他人が見ている時があって潤一郎は困り果てている。
今まで充弘の笑顔を見たことがなかった学校の者達が、潤一郎に微笑んでいる充弘を見てノックアウトされてしまっていた。
「潤一郎ったら……目を開けたまま寝ないでくれる?そんな潤一郎の姿を同じ学校の生徒が見たら幻滅するよ?」
「俺の寝起きを見るのは、みっちゃんぐらいだから別にいい。」
「じゃあ僕が幻滅したら?」
その後、潤一郎が半開きの目をしっかりと開いて飛び起きたのは言うまでもない。
◇
「おい、そこの生徒会副会長!しっかり仕事しろよっ。」
生徒会の人間でもないのに生徒会室の中央にあるソファにふんぞりかえっている新聞部部長の理に注意されて、潤一郎は我に返り恐ろしい目つきで理を睨んだ。
あの柔道部の一件以来、理はたびたび生徒会室に出入りするようになった。
節操なしの生徒会長の一史が絡んでいるに間違いはないのだが、『そんなことよりみっちゃんのこと』の潤一郎は理に深く追求していなかった。
「うるさい。なら、お前がやれ。」
「潤一郎。副会長の仕事を新聞部の理にやらせてどうするんだ?」
一史に当たり前のつっこみを入れられる。
いつもなら真面目に仕事をこなす潤一郎だが、今日ばっかりは心配でしょうがなかった。
『美術部が終わったら、帰りに潤一郎ところに行くね。』
朝、学校に向う途中、充弘がそう言っていたのだ。
時刻は6時。
部活の終了時間は普通5時30分。
運動部ならもっと遅くまでやるところもあるが、文化部、ましてや美術部なんて5時30分までやることだって珍しい。
みっちゃん……何をしてるんだ?
もしかして!?
また、みっちゃんの身に何かあったら………!
やっぱり仕事が全然進まない潤一郎であった。
そんな潤一郎の様子を観察しながら、一史は『今日は仕事のならないな。』といった感じで深くため息をついた。
潤一郎の仕事がほんの少し進んだ時、生徒会室のドアがノックされる音が部屋中に響いた。
ゆっくりとドアが開いて、外から顔を覗かせたのは充弘だった。
「ゴメン。潤一郎……少し遅れちゃった。」
さっきまで空を睨むような目つきだった潤一郎の顔が、急に穏やかになった。
そんな潤一郎を見て、理と一史は『好きな人の前だと人間変わるんもんだなぁ。』と、勝手に納得してしまう。
理と一史も潤一郎から見れば、きっと同じことを思われているだろうに…。
「何か…あったのか?」
生徒会室の中に入ってきた充弘に、送れてきた理由を聞こうと潤一郎が尋ねた。
穏やかな声なのに目はしっかりと充弘を捕らえている潤一郎に対して、少し挙動不審な充弘は気まずそうに話し始める。
「え?あっ……うん。部活が終わってここに来る途中で、呼び止められて…。」
「呼び止められて?」
「……………告白、されたんだ。」
その場にいた潤一郎、理、一史、3人ともが充弘の言ったことに驚いた。
あの事件からの充弘の変わりようは理や一史の目でも分かるように、その他の奴らの目でも充弘の変化は感じていたらしい。
「それって……男だよな?」
最初に質問したのは、理だった。
最初に聞く質問が男だったのか?なんて、かなり理らしい。
理は充弘を自分の座っている目の前のソファに座るように進めて、チラッと潤一郎の方を盗み見た。
潤一郎の顔は充弘に釘付けで、理の視線に全く気付いてもいない。
充弘が誰かに告白されたことに、かなりショックを受けているらしかった。
「うん。でも、誰か分からない。僕、潤一郎以外の男の人に触られるのって苦手だから、逃げてきちゃったんだ。」
「触られたっ!?どこを!?」
自分の席に座っていた潤一郎は立ち上がり充弘に近寄って、充弘の両肩を掴んで問いかけた。
充弘はビックリして目を開いたが、その後嬉しそうに微笑んだ。
潤一郎にだけにしか見せた事のない笑顔で、潤一郎を見つめた。
潤一郎はいつも他人の前ではクールだけど、僕の前だけはクールじゃなくなるんだよね。
素のままの潤一郎の方が好きなんだけど、あんまりそんな潤一郎を他の人に見せたくない。
僕の大切な人だから。
結局お互い似たようなことを思っている潤一郎と充弘なのだが、お互い口に出さないので伝わっていない。
「触られてないよ。手を触られそうになったから逃げてきたの。」
自分の両肩を掴んでいる潤一郎の手の上に自分の手を置いて、その片方に頬を寄せた。
潤一郎の大きい手から、温かさが伝わってくる。
「あの〜。こんなところで二人の世界に入らないでくれますー?じゃないと、俺、新聞部部長として今の二人を写真に撮って、明日の校内新聞に載せるけど?」
声が聞こえた方を二人して振り返ると、理が呆れるような顔をして二人を見ている。
その理の傍(かたわ)らでは、さっきまで生徒会長のイスに座っていたはずの一史まで、呆れるように二人を見ていた。
「二人ともラブラブでいいねぇ。この二人のように俺らもラブラブになってみない?」
一史は手で理の腰元を引き寄せて、理の耳元に甘くささやいた。
そんな一史を理は手のひらを『グゥ』にして、思いっきり殴って勝ち誇ったような顔をしている。
理と一史の関係は、進展しているのかしていないのかわかっていない。
「俺、先帰るから!じゃ〜な潤一郎。また明日教室でな〜。」
一史を押しのけて、慌てて理は生徒会室から出て行った。
そんな理の後を追うように、一史は自分の机を片付け始める。
「じゃ〜俺も、理の後を追って先に帰るな。潤一郎、いちゃいちゃするのは良いけど、自分の仕事を終わらせてから帰れよ?カギは……机の上に置いておくから。」
そそくさと自分の荷物をかばんに詰め込んで、理から数十秒遅れて一史も生徒会室から出て行った。
そんな理と一史の様子をボケェと見ていた潤一郎は、充弘の両肩にまだ手を乗せたままだった。
「あの二人って……どうなってるんだ?」
ボソッと呟く潤一郎に、充弘はかる〜くキスをして答えた。
「多分……付き合ってるんじゃないかな?何となくだけど……。」
「みっちゃんからキスしてくれるなんて……あんまりないから嬉しい。」
細い肩幅の充弘を抱きしめて、潤一郎は首元に顔を埋める。
二人の話がかみ合ってないのは、充弘のことになると他のことはどうでもいいぐらいに充弘のことを思っている潤一郎である。
こんな生徒会室じゃなくて、自分の部屋でゆっくりと充弘と二人っきりになりたいと思った潤一郎は、充弘を抱きしめるのを止めて、自分の席に戻りいきなり仕事を始めた。
「潤一郎?」
「早く仕事を終わらせて、みっちゃんと家に帰りたいから。あそこが俺とみっちゃんの家だから、いちゃいちゃするなら自分の家でしたい。後10分で終わらすから、みっちゃんは少しだけそこで待ってて。」
潤一郎はそういい終わると、さっきまでのニヤけた顔じゃなくて副会長の顔に戻って真剣に仕事をこなし始めた。
真剣に仕事をしているときの潤一郎は、何を話し掛けても曖昧にしか聞いてないので、充弘は大人しくソファに座って少し横になった。
◇
「みっちゃん……寝顔可愛いっ…。」
潤一郎が仕事を終わらせて、ふと顔を上げて充弘の方を見ると、充弘はソファに横になってスヤスヤと寝ていたのだ。
朝起きる時は低血圧の潤一郎がほとんど充弘に起こされるため、めったに充弘の寝顔を見ることが出来ない。
潤一郎は机の上を音をたてずに片付けて、ソファで眠っている充弘のそばへと近寄ってソファの横にしゃがみ込んだ。
気持ち良さそうに笑顔で寝ている充弘。
充弘のさらさらの髪の毛を手櫛(てぐし)で梳いて、指に絡める。
「………んっ…。」
寝ている充弘がその手に反応して、少し身動きをした。
その身動きで潤一郎の方を向いた充弘に、潤一郎はそっと充弘の唇に自分のを乗せた。
――ちゅっ
唇を離すときになった音によって目覚めた充弘は、ぼんやりとした顔のまま潤一郎を見る。
「ん〜?……はよぅ。」
「おはようじゃないだろ?」
「………?僕、寝てたんだ?…ゴメン、潤一郎を待ってるつもりだったのに。」
「みっちゃんがそばにいてくれただけで、俺は嬉しいよ。俺たちの家に帰ろ?」
「うん。」
充弘と潤一郎の家。
かけがえのない人と暮らす喜び。
大切な…大切な、『家』。
その後、充弘に告白したという男は突き止められ、充弘に二度と近づかなくなった…と言う。
19000HITをゲットされた、朱里さまからのリクエストです。
実はリクエストを色々頂いたのですが……あっちこっちをポロポロと繋げたせいで何だか…妙な終わり方になっちゃいました(^^;
一応、理と一史も出して、二人の関係をほんの〜りと漂わせてみたんですが(笑)この二人が主役になるお話がいつ書くかは未定です(おいっ)
ところで、みっちゃんに告白した男は、潤一郎に一体何をされたんでしょうかね?
みっちゃんが潤一郎以外の男を好きになるわけないのに〜♪
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(2002/04/03)